カワイイは最強!〜地味子のカワイイ・プロジェクト〜


「優勝おめでとう!」


コンテスト終了後の控室。


放心状態のわたしを、美雲さんと片桐さんが笑顔で迎えてくれた。


あのあと、プロジェクトの結果発表が行われて、見事わたしが優勝した。


「…なんか信じられない…」


いまだに実感がわかない。


その時、ドアをノックする音が聞こえて。


「おめでとう、美夢ちゃん!」


天野先輩と皇月先輩が入ってきた。


「ありがとうございます」


「よく頑張ったな、月島」


そう言って、皇月先輩がわたしの頭に手を乗せた。


その温もりが優しくて、嬉しくて、気づけば涙が溢れていた。


「今まで本当にありがとうございました」


地味子のわたしをこんなに可愛くしてくれて、たくさん夢を見させてもらった。


手の届かない存在だと思っていた皇月先輩と凛ちゃんに会えて話ができるようになった。


だけど、それも今日まで…⋯。


「何これで最後みたいなこと言ってんだよ」


皇月先輩が笑いながらそう言って、


「そうだよ。まだクリスマスパーティーもあるんだから」


天野先輩も言葉を続けた。


「でも、もう“音夢”としては…⋯」


「ちょっと、美夢ちゃん、何か誤解してない?」


言いかけたわたしの言葉を遮って、美雲さんが言った。


「…⋯え?」


「別にプロジェクトが終わったからって、スウィガに出るのも終わりってわけじゃないわよ。この前も話したでしょ?音夢ちゃんのファンも増えて来てるし、これからも七星くんや凛ちゃんと一緒に頑張ってほしいな」


「それって…これからも“音夢”でいていいってことですか?」


「ええ。この学校は芸能活動認められているしね。もちろん、美夢ちゃんさえ良ければだけど」


そんなの、答えはもちろん…


「よろしくお願いします!」


「こちらこそ」


わたしの言葉に、美雲さんが笑顔でそう返してくれた。


――数週間後。


「はい、音夢ちゃん目線こっちね」


ただ今、皇月先輩と凛ちゃんと一緒に、【Sweet Girls】の撮影真っ最中。


今日の衣装は、クリスマス特集ということで、クリスマスカラーの赤いタータンチェックのワンピース。


そしてとっても可愛いテディベアを抱っこしての撮影。


「はいOKです。お疲れ様でした」


「お疲れ様でした」


無事に撮影が終わって楽屋へ戻ろうとした時、凛ちゃんに呼びとめられた。


ふたりで、楽屋の向かい側にある使用されていない会議室に入る。


「プロジェクト、優勝したんだってね。おめでとう」


「ありがとう」


凛ちゃんは、美雲さんと皇月先輩から夢ヶ咲学園のカワイイ・プロジェクトの話を聞いてわたしが優勝したことも知っていたみたい。


「それで、実は音夢ちゃんに言っておきたいことがあるんだ」


「言っておきたいこと?]


なんだろう?


思い当ることがないか心の中で考えていると、凛ちゃんが口を開いた。


「正直に言うね。わたし、七星くんにフラれちゃったの」


「……え?」


フラれた?凛ちゃんが?


「…ウソ…」


「ホントだよ。実はわたし、いつも一緒に仕事してるし結構脈アリかなって思ってたんだよね。
でも、ただ自惚れてただけみたい。“仕事仲間としか見られない”ってあっさり言われちゃった」


「……そんな……」


こんなに可愛くて優しくて素敵な凛ちゃんを振るなんて…信じられない。


「まぁ、わたしは玉砕しちゃったけど。きちんと七星くんに想いを伝えたからね。次は音夢ちゃんの番だよ」


「……え……」


「学校でクリスマス・パーティーあるんでしょ? そこでちゃんと気持ち伝えなよ」


「………」
 

伝えたいけど…でも、凛ちゃんがダメなら、わたしなんてもっとダメな気がする……。


「こら、弱気になっちゃダメだよ」


「……え?」


「わたしに堂々と七星くんが好きって言ってくれた音夢ちゃんなら、大丈夫だから」


「………」


どうして、凛ちゃんはこんなに優しいんだろう。


ライバルのはずなのに。


本当は好きな人にフラれて辛いはずなのに。


「どうしてそんなに優しくしてくれるの⋯…?」


「わかるから」


「……え……?」


「わたしも学校でいじめられて、自分に自信がなくて辛かった時があるから、音夢ちゃんの気持ちよくわかるの。正直言うと、音夢ちゃんが七星くんとうまくいったら悔しいなって思う気持ちもあるけど。応援したいなって気持ちもホントなの」


ああ、そうか。お茶会の時、言ってたよね。


同じ苦しみや痛みを知っているから、だからこんなに優しくできるんだ。


「……ありがとう……」


わたしも、凛ちゃんみたいな人になりたい。


凛ちゃんみたいなモデルになりたい。


「結果、報告してね」


「……うん」


怖いけど、不安だけど。最強で最高のライバルが背中を押してくれたから。


勇気を出して、伝えよう。


☆ ☆ ☆


クリスマス・パーティー当日。


会場は有名な一流ホテルの宴会場。


生徒もドレスやスーツ姿で参加していて、本格的。


学園が主催するパーティーだけあって豪華で、さすがお金持ち学校っていう感じ。


「月島さん、そのドレスすごい可愛いね~!」


テーブルから少し離れたところでぼんやりみんなの様子を見ていたら、クラスの女の子に声をかけられた。


フリルとレースたっぷりの白いドレスは、【Sweet Girls】のスタッフさん達からプロジェクトの優勝祝いでプレゼントしてもらったもの。


リボンとレースつきのカチューシャや靴までセットでプレゼントしてもらって、本当に嬉しかった。


「わたし、【Sweet Girls】今月号持ってるんだ。サインしてもらっていい!?」


興奮気味にバックから取り出す姿に、思わず苦笑する。


プロジェクトで優勝してから、わたしに対するクラスのみんなの態度はすっかり変わった。


それまで地味子として浮いていたわたしだけど、みんなが一目置くようになった。


こうしてサインを頼まれることも増えた。


嬉しい半面、複雑な気持ちもある。


人って単純だなって、つくづく思う。


渡されたペンでサインをしようとしたその時。


「――月島さん」


名前を呼ばれて振り返ると、如月さんと取り巻きの子達がいて。


「皇月先輩が呼んでたよ。裏玄関に来てほしいって」


如月さんが言った。


皇月先輩がわたしを呼んでる?


このあとのダンスのことかな。


「わかった。ありがとう」


如月さんにお礼を言って、わたしは宴会場を出て裏玄関へ向かった。


「……あれ?」


言われた通り裏玄関へ向かうと、そこには誰もいなかった。


冬の冷たい風が頬に当たる。


もしかして、如月さん達の嫌がらせ?


嫌な予感がして、戻ろうと思って踵を返した時、


「……こんな古典的なウソに引っ掛かるなんて、ホントバカだよね」


「……え?」


聞こえて来た言葉に顔を上げると、目の前に冷たく笑う如月さん達がいた。


「地味子のクセに、サインとか。ホントムカつく!」


「調子乗ってんじゃねぇよ!」


そう言いながら、取り巻きのひとりがわたしに向かって手を振り上げた。


――ぶたれる!


そう思って目を閉じた瞬間。


「何してるの?」


聞き覚えのある声が聞こえた。


「俺の大事なお姫様に怪我させたら君達この学校にいられなくなるよ」


「……え?」


「……は?」


わたしと如月さん達の声が重なる。


驚いて顔を上げると、目の前に如月さん達を睨むように見つめている皇月先輩がいた。


「行こう」


皇月先輩は、わたしの手を取ると唖然としている如月さん達の横を足早に通り過ぎていく。


誰もいないホテルの裏口まで辿り着いた時。


「先輩、あんなウソついちゃっていいんですか?」


「月島はイヤだった?」


「イヤだなんて、そんなことないです!」


むしろ、すごく嬉しかったけど⋯…。


絶対に、学園の王子様である皇月先輩が地味子とつき合ってるなんて悪意のあるウワサが一気に広まってしまう。


そうしたら…皇月先輩に迷惑かけちゃうよ…。


「周りのことなんか気にするな。言いたいやつには言わせとけばいい」


ああ、どうして。どうして先輩は、わたしの思ってることがわかるんだろう。


「月島?」


泣きそうになってうつむいたわたしを、先輩は不思議そうな表情で見ている。


「……です」


「―え?」


「皇月先輩が好き、です…⋯」


ずっと“わたしなんか”って思ってた。


でも、先輩のおかげで、自分にほんの少し自信が持てるようになったの。


自分の力を信じられるようになったの。


だから、たとえ結果はダメでも、自分の気持をしっかり伝えたかった。


「………」


皇月先輩は、黙ったままで。


わずか十数秒の沈黙が、とても長く感じられた。


そして、返ってきた言葉は…


「―ありがとう」


とても優しい言い方で。


顔を上げると、先輩が優しく微笑んでいた。


「七星~!」


突然、沈黙を破って大きな声が響いた。


この声はきっと…


「宙、もう少し声のボリューム下げろよ」


呆れ顔で言った皇月先輩。


振り返ると、予想通り天野先輩がいた。


「何も言わずにいなくなるから、慌てて探したんだぞ
!もうダンス始まるから早く戻れよ!」


天野先輩に急かされて、慌てて会場へ戻る。


さっきの"ありがとう"って、どういう意味なんだろう。


聞きたいけど、今はそれどころじゃない。


「さあ、お待たせしました! 皆様お待ちかねのダンスタイムです」


天野先輩がステージに立ってマイクでそう言うと、会場から拍手が起きた。


そしてステージに揃った吹奏楽部の生演奏が始まると、みんなダンスを踊り始めた。


「踊るか」


「え?」


不意に皇月先輩に言われて、慌てて顔を上げる。


「プロジェクト優勝者の権利。月島は俺と踊るってことだろ?」


「…⋯あ…⋯」


そっか。プロジェクトの優勝者は、クリスマスパーティーで好きな人と踊る権利がもらえるんだよね。


「お手をどうぞ、お姫様」


そう言って手を差し出したタキシード姿の皇月先輩は、本当に王子様みたいだ。


「よろしくお願いします」


わたしは、その手をそっと握った。


ふたりで会場の中央へ向かう。


「さぁ、学園の王子様とシンデレラの登場です!」


天野先輩の言葉に、会場中の視線がわたしたちに集まる。


恥ずかしいけれど、でも嬉しい。


「美夢」


踊りながら、皇月先輩がわたしの名前を呼んだ。


「今度は“音夢”じゃなくて“美夢”のこと、お姫様にするから。覚悟しといて」


小さく囁かれた言葉。


もしかしてそれって…⋯。


胸に甘い期待が広がる。


曲が終わった瞬間、わたしの体がふわっと宙に浮く感覚。


「この場を借りて皆さんに紹介します。彼女の月島 美夢です」


その言葉に会場から大きな歓声が響いた――。