カワイイは最強!〜地味子のカワイイ・プロジェクト〜



「ということで、夏休みのクラス交流会は矢坂神社の夏祭りに決定しました」


1学期最後の終業式のホームルーム。


クラス委員の言葉にクラス中から拍手が起きた。


夢咲学園では、1年生の学校行事として夏休みにクラスごとに交流会をやるらしく、わたしのクラスは学校の近くにある神社の夏祭りに行くことになった。


「みんなせっかくだから浴衣着て参加して下さいね~」


「は~い!」


明日から始まる夏休みにテンションが上がっているのか、クラス委員が続けて言った言葉に、元気な返事が響いた。


正直交流会なんて行きたくない。


行ったってどうせひとりで浮くだけだし。


家族で出かける予定があるって言って欠席しようかな…。


なんて思っていたその時。


「ねぇ、もしかして皇月先輩に会えるかなぁ!?」


突然聞こえてきた“皇月先輩”の名前に思わず反応してしまう。


「確か生徒会の人達も毎年夏祭りに行ってるんだよね。運が良ければ会えるんじゃない?」


夏祭りに行けば、皇月先輩に会えるかもしれない?


それを聞いたわたしは、夏祭りに参加することにした。


「変じゃない?」


夏祭り当日。


お母さんに浴衣を着せてもらって、最終チェック。


「大丈夫よ。もう出ないと間に合わないでしょ」


「あ、ホントだ! じゃあ、行ってきます!!」


慌てて玄関へ向かって家を出た。


急がないと午後6時の集合時間に遅れちゃう!!


慣れない下駄で走りながら、集合場所の矢坂神社へ向かう。


神社へ着くと、聞こえてきたお囃子の音。


屋台から漂ってくる美味しそうな焼きそばの匂い。


夏祭り独特の雰囲気に、自然と気持ちが高揚する。


入口に、わたし達のクラスらしき集団がいた。


みんな浴衣姿で雑談している。


「それじゃ、ここからは自由に回って下さい。


花火が終わったら、またここに集合して下さい」


クラス委員の言葉に、それぞれが友達同士で移動し始めた。


わたしは、もちろん一緒に回ってくれる友達なんていないから、みんなの後ろをひとりで歩く。


「妃花ちゃん、その浴衣超可愛いね~!」


少し前を歩く、如月さん達のグループから聞こえてきた言葉。


グループの真ん中にいる如月さんは、ピンクの生地にバラ柄、襟や袖にはレースがついたワンピース型のゴスロリ浴衣を着ていた。


「これ、Pinky Candyが出してる限定ものの浴衣なんだ」


ちょっと得意げに言った如月さん。


言われてみれば、わたしも【Sweet Girls】で凛ちゃんが着てるのを見ていいなと思ってた浴衣だ。


如月さんみたいに可愛い子が着るとなおさら可愛く見える。


通り過ぎる人達も、如月さんを振り返って見てる。


「地味子さんが羨ましそうに見てるよ~」


わたしの視線に気づいたのか、如月さんの隣にいた子がそう言って、如月さんが振り返ってわたしを見た。


「あ、月島さんも浴衣着てきたんだ」


言いながらわたしの浴衣を見て、


「古くさい浴衣」


バカにしたようにつぶやいた。


「地味子さんはやっぱり浴衣も地味なんだね~」


そう言ってクスクスと嘲笑する3人。


周りから感じる憐みと好奇の視線。


「……」


この場から逃げ出したくて、わたしは人混みの中をすり抜けて駆け出していた。


賑わう屋台を抜けて辿り着いたのは、神社の境内。


これから始まる花火を見ようと、カップルや家族連れが場所取りをしている。


息が苦しくて、立ち止まって呼吸を整えていたら、堪えていた涙が溢れてきた。


悔しい、悔しい、悔しい。


この浴衣は、去年亡くなったおばあちゃんの大切な形見なのに。


確かに地味かもしれないけれど、わたしにとっては大好きな浴衣なのに。


「……月島?」


境内の階段に座り込んで泣いていると、突然誰かに名前を呼ばれた。


振り向くと、そこにいたのは皇月先輩だった。


「大丈夫か? 具合でも悪くなった?」


心配そうに訊いてくれる先輩の優しさに、抑えようとしていた涙がさらに溢れて来た。


「………っ」


「何があった?」


話していいのかな。


“そんなことか”って呆れられないかな。


なんて考えていたら、


「余計なこと考えないで話してみな」


皇月先輩がそう言ってくれたから。


思い切ってさっき如月さん達に浴衣をバカにされたことを話すと、


「そんなくだらないこと言うヤツなんて気にするな」


先輩はそう言いながら笑った。


やっぱりわたしが気にし過ぎなのかな。


「……その浴衣、俺はいいと思うよ。月島に似合ってる」


⋯⋯え?


思わず先輩の顔を見上げた瞬間、ドンという大きな音が聞こえて、一瞬周りが明るくなった。


「…花火…?」


いつのまにか、花火大会が始まる時間になっていたんだ。


「綺麗だな」


何事もなかったようにそう口にした先輩の頬がほんのり赤く見えるのは、花火の色のせいかな?


次々と夜空を鮮やかに染めていく花火。


偶然とはいえ、こうして憧れの皇月先輩と見られるなんて思わなかった。


そっと先輩の横顔を見る。


相変わらずキレイに整った顔。


今は“音夢”としてではなく、月島 美夢として先輩の隣にいるんだよね。


ずっとこうして先輩の隣にいられたらいいのに…。


そう思ったら、胸の奥がしめつけられるような感覚がした。


最初はただ遠くから見ていられればそれで良かったのに、もっと近づきたいって思ってる。


この気持ちは、きっともうただの憧れじゃない。


わたし…皇月先輩のことが好き―。