カワイイは最強!〜地味子のカワイイ・プロジェクト〜


静まり返った教室に、ペンを走らせる音が響く。


窓の外では夏を告げる蝉の大合唱が聞こえる。


最後の一問を見直し、わたしはシャープペンシルを机に置いた。


勉強したかいあって、手応えは充分。


「はい、そこまで!」


先生の言葉と同時にチャイムが鳴り、解答用紙を後ろの席から回しながらみんなが一斉に話し始めて、教室が一気に騒がしくなった。


お茶会でもう一度夢の様な素敵な時間を過ごしたあと、わたしに待ち受けていたのは期末テストという現実。


でも、それも今解放された。


あとは夏休みが来るのを待つだけ。と言っても、わたしの場合は友達もいないし何の予定もない夏休みだけど。


「え~妃花ちゃんすごい! 」


突然聞こえて来た声に視線を向けると、如月さんの席に早速いつもの取り巻きの子たちが集まってはしゃいでいた。


「夏休みに家族でフランス旅行なんて、さすが元モデルのお母さんだよねぇ」


わざとみんなに聞こえるように大きな声で話しているのか、離れたわたしの席にまで聞こえて来た言葉。


その言葉にさらに周りの子たちも反応して、「すごい、さすがお嬢様」「うらやましい~」なんて盛り上がり始めた。


「毎年家族で行ってるんだ」


自慢げにそう言った如月さん。


フランスか。いいなぁ、わたしもいつか行ってみたいな。


うちは両親共休みが不規則な仕事だから、夏休みに家族旅行なんてしたことがない。


誕生日やクリスマスだって、一緒に過ごしたのは数えるくらいしかない。


今日だって、ふたりとも仕事で、帰ってくるのはきっと深夜だ。


H.R.が終了した後、特に予定もないわたしはすぐに教室を出て早く帰ろうと昇降口へ向かった。


すると、中庭の方から女の子達の賑やかな歓声が聞こえて来て。


「七星先輩、お誕生日おめでとうございます!」


「プレゼント受け取って下さい!」


そう言ってプレゼントらしきものを手に、皇月先輩を囲んでいる光景が見えた。


7月7日、今日は皇月先輩の誕生日だ。


前に【Sweet Girls】のインタビューで、「七夕生まれだから“七星”と名付けられた」って話していたっけ。


「ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくよ」


そう言って微笑んだ皇月先輩に、またしても「キャ~」と歓声があがる。


やっぱり皇月先輩は学園の王子様で、人気モデルなんだ。


ついこの前お茶会で一緒に話していたのが信じられない。


今こうして制服を着ているわたしは、ただの地味子で、とても話しかけることなんてできない。


同じ日に生まれたのに、この差はなんだろう。


誕生日だからって祝ってくれる友達なんていないし。


両親だって子供の誕生日より仕事が優先なんだ。


暗い気持ちのまま帰宅すると、ポストの中に厚めの封筒が入っていた。


宛先にはわたしの名前。差出人は“乙女の森社”。


ということは、きっと【Sweet Girls】の最新号だ。


早速中を開けてみると、予想通り来週発売の【Sweet Girls】が入っていた。


中にはこの前のお茶会のレポートが掲載されている。


ページを確認して見てみると、思っていたよりも大きく“音夢”のわたしが写っていた。


私じゃない私。魔法にかけられた夢の中の私。


だけど、確かにあの日あの時あの場所に“私”がいたことを証明している。


お茶会のページを確認したあと、私は改めて最初のページから読み始めた。


今月号の巻頭特集も、もちろん凛ちゃんだ。


七夕をテーマにした“スターライトファンタジー”という特集で、フリルのブラウスに星図と惑星の柄が描かれているサックスブルーのスカートという衣装。


スカートのウエスト部分には大きなリボンがついていて、とても可愛いデザイン。


凛ちゃんはどんな服を着ても似合ってる。


夢中になって読んでいたら、気がつけばもう窓の外は日が暮れ始めていた。


テレビをつけると、天気予報のコーナーでアナウンサーのお姉さんが、

「七夕の今夜は残念ながら雲が多く、天の川は見られないでしょう」

と残念そうに言った。


窓を開けて空を見上げると、確かに雲が多くて星は見えなかった。


「こちらFテレビ局の広場にはたくさんの短冊が飾られています。皆さんはどんな願い事をしましたか?」


テレビから聞こえて来たアナウンサーの問いかけに、ふと心の中で考える。


願い事か。今のわたしが願うことは、やっぱり…。


「カワイイ・プロジェクトで優勝できますように」


そう言葉にしてもう一度空を見上げると、雲の隙間からちょうど星が見えた。


凛ちゃんも皇月先輩も、あの星みたいに遠くて手の届かない存在だったのに。


今は実際に会って話すことができるようになったなんて、信じられないけど。


頑張って優勝して、自信を持って皇月先輩と凛ちゃんの隣に立てるようになりたい。


ひとりきりの誕生日で落ち込んでいたけれど、今日届いた【Sweet Girls】は、まるで“音夢”というもうひとりの私からの誕生日プレゼントのように思えた。