カワイイは最強!〜地味子のカワイイ・プロジェクト〜



「きゃ~皇月先輩~!」


「七星くんカッコイイ~!」


放課後、廊下から聞こえてきた女の子達の声


視線を向けると、ちょうど皇月先輩が通りかかるところだった。


少し離れたところから見ても、ものすごい存在感。


まるで皇月先輩の周りだけスポットライトが当たっているみたいにキラキラ輝いている。


やっぱり素敵だなぁ…。


「―さん。月島さん!」
 
「は、はい!?」


皇月先輩に見とれていたから、名前を呼ばれていたことに気がつかなかった。


慌てて振り返ると、目の前には如月さんとその友達ふたりが立っていた。


「あのね、月島さんにお願いがあるんだけど~」


わざと上目遣い気味に私を見て、甘えたような声を出す
如月さん。


“お願い”がなんなのか薄々気づきながら、「なに?」と尋ねる。


「今日、どうしても外せない予定があるから、掃除当番代わってくれない?」


やっぱりそうか。


予想通りの言葉に、わたしは内心ため息をついた。


本当はイヤだって言いたい。


たまには他の人にお願いして、って言いたい。


…⋯だけど。


「代わってくれるよね、月島さん?」


さっきの甘えた口調とはまるで違う有無を言わせない口調で如月さんに言われて。


「…うん…」


わたしは頷くことしかできなかった。


「ありがと~! じゃあ、よろしくね」


如月さんは嬉しそうな笑顔でそう言うと、友達と一緒に教室を出ていった。


結局わたしは如月さんグループの掃除担当場所である資料室へ向かい、ひとりで掃除をすることになって。


「…はぁ…」


床をほうきで掃きながら思わずため息が出た。


一通り掃除を終えて帰ろうと昇降口へ向かって廊下を歩いていた時。


「あ~ホントあの地味子うざいよねぇ」


どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


声が聞こえた方へ視線を向けると、昇降口とは反対側に面した方にある中庭に如月さん達がいた。


予定があるって言ってたのに、まだ帰ってなかったの…?


「さっきも皇月先輩のことうっとりした顔で見つめちゃってさぁ」


「こっち見んなブスって感じ?」


もしかして、わたしの話⋯…?


思わず立ち止まって話を聞いていると、


「でも予定あるとかウソつけば掃除当番代わってくれるから便利だよねぇ」


如月さんの声でそんな言葉が聞こえて来た。


⋯⋯ウソってことは、予定なんかなかったの?


わたしに掃除当番を押し付けたかっただけなの?


呆然と立ち尽くしていると、如月さんの友達がわたしの存在に気づいてしまった。


「盗み聞きとかありえないんですけど~」


その言葉で如月さんもこちらへ視線を向けて、一瞬バツが悪そうな表情を浮かべた。


けれどすぐに、


「地味子は地味子らしく掃除してなよ~。わたしはこれからレッスンがあるから忙しいの」


そう言ってスクバを肩にかけて立ちあがり、わざとぶつかるようにわたしの間横を通り過ぎた。


その時、ぶつかった拍子に手に持っていたスマホが地面に落ちてしまった。


慌ててすぐに拾ったけど、


「皇月先輩と凛ちゃん…?」


運悪く如月さんが待ち受け画面を見てしまったらしい。


どうしよう、わたしがふたりに憧れてるなんてバレたら――


「へぇ、月島さんもふたりのファンなんだ?」


バカにされる覚悟でスマホを手に握りしめてうつむいていたら、予想外に優しい口調で言われて、思わず顔を上げた瞬間。


思い切り笑顔なのに瞳が笑っていない如月さんが、


「自分の顔、鏡で見てからにしなよ」


そう吐き捨てるように言ってさっさと歩いて行ってしまった。


“自分の顔、鏡で見てからにしなよ”


如月さんの言葉が胸に突き刺さる。


そんなの、わたしだってわかってるよ。


だけど、せめて遠くから見て憧れるくらい、いいじゃない。


スマホの画面に映る皇月先輩と凛ちゃんの笑顔が涙で滲んでいく。


思わずしゃがみこんで泣いていたら、


「……大丈夫?」


突然、頭上から声が聞こえてきた。


ビックリしてはじかれたように顔を上げると、そこにいたのは…


「……皇月先輩……?」


ウソでしょ…?


なんでこんなところに皇月先輩がいるの…?


「とりあえず、こっちおいで」


皇月先輩は、そう言ってわたしの腕を引いて歩き出した。


「ここなら、今誰もいないから」


そう言って案内されたのは、生徒会室だった。


ちょっと待って。これはなに? 夢?


憧れの皇月先輩に声をかけられたうえに、部屋にふたりきりなんて…⋯。


信じられない出来事に、さっきまで溢れていた涙も止まった。


「あの女子たちに何か言われてただろ?」


「…⋯え?」


「偶然通りかかったら、なんかやばそうな感じだったから。廊下から少し様子見てたんだ」


やだ、皇月先輩に如月さんたちにいじめられてるところ見られてたんだ…⋯。


「凛ちゃんや皇月先輩のファンなんて自分の顔鏡で見てからにしなよって。でも、その通りですよね。わたしなんかが可愛くなりたいなんて夢見ちゃいけないんですよね…⋯」


言いながら、また涙が溢れてきた。


よりにもよって憧れの皇月先輩にいじめられてるところを見られるなんて、恥ずかしくて、情けなくて。


「“わたしなんか”って言うなよ」


顔を上げると目の前に皇月先輩がいた。


こんなに至近距離で皇月先輩を見たのは初めてで、間近でみるとそれはもうこの世の生き物とは思えないくらい眩しくて。


あまりの眩しさと近さに慌てて視線を逸らす。


心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてる。


こんな時にドキドキしてる場合じゃないのに。



「⋯⋯決めた。今年のシンデレラ候補にするから頑張れ」


「⋯…え…?」


どういうこと…?


訊き返そうとした、その時。


「七星、いるか~?」


突然、そんな元気な大声と共に勢いよく扉が開かれた。


(そら)、そんなでかい声出すなよ」


皇月先輩が振り返って不機嫌そうに言うと、


「わりぃ、取り込み中だった?」


“そら”と呼ばれた男の子がわたしと皇月先輩を交互に見て言った。


「思い切り取り込み中だろ」


「おい七星、なに女の子泣かせてるんだよ!?」


「違うって。俺が泣かせたんじゃない。それより、例の件だけど」


「ああ、見つかったのか?」


「この子にしようと思うんだ」


ふたりしてわたしの存在を無視して何やら話してるけど、なんのこだかさっぱりわからない。

例の件ってなんだろう?


「え、マジで!? この子が今年のシンデレラ候補!?」


シンデレラ?なんのこと?


ふたりが何の話をしているのか、全くわからない。


「⋯⋯あの、何のお話ですか?」


おそるおそる尋ねると、


「ああ、新入生だからまだ知らないか」


皇月先輩が、わたしの方に視線を戻して言った。


「夢ヶ咲学園には、年に一度、生徒会が主催するカワイイ・プロジェクトっていう学校行事があるんだ」


「カワイイ・プロジェクト?」


訊き返したわたしに、皇月先輩が詳しく説明してくれた。


「そう。可愛くなりたい学園の生徒が制服姿でノーメイクの状態からメイクや衣装で可愛くなった姿を披露するんだ。それで優勝すると、学園主催のクリスマス・パーティーの時に好きな人とダンスできる権利がもらえる」


「それで、七星はきみをシンデレラ候補として生徒会長として直々に指名したいんだって」


「――え?」


「悔しかったら可愛くなって見返してやれ」


「…⋯でも⋯…」


急にそんなこと言われても、何をどうしたらいいのかわからないよ…⋯。


「俺らが協力するから大丈夫だよ。あ、自己紹介まだだったよな。俺は天野(あまの)(そら)。七星の親友で一応生徒会副会長やってま~す」


戸惑う私に気さくな笑顔でそう言ってくれたのは、天野先輩。


天野先輩って、生徒会副会長だったんだ。


いつも皇月先輩ばかり目立っているから天野先輩の存在を今初めて知った…。


「1年A組 月島 美夢です。よろしくお願いします」


わたしも自己紹介をすると、


「みゆちゃん?どういう字書くの?」


天野先輩が訊いてきた。


「美しい夢で“みゆ”です」


「へぇ~綺麗な名前だね~」


「そんなことないです…。わたしなんかに似合わない名前だから…」


「ストップ! “わたしなんか”って言っちゃダメだよ」


「…え…?」


その言葉、さっき皇月先輩にも言われた。


「これからは“わたしなんか”は禁句。自信を持ってプロジェクトに参加しなくちゃ」


「そんな、自信なんてないです! さっきも如月さんにブスって言われたばかりで…」


「だってさ、七星。どうするよ?」


わたしの言葉に、天野先輩が困ったように皇月先輩を見て言う。


「じゃあ、月島も一緒に連れてくか」


「よし、そうこなくちゃ!」


天野先輩は嬉しそうにパチンと指を鳴らすと、


「美夢ちゃん、行くよ」


そう言ってわたしの手を引きながら生徒会室を出た。


「え? ちょっとどこに行くんですか!?」


わけがわからないまま先輩についていく。


一体何がどうなってるの!?