【Side 凛】
「おはようございます、よろしくお願いします」
期末試験を終えて春休みに突入した3月半ば。
撮影でスタジオに入ったわたしは元気に挨拶をした。
「あ、音夢ちゃん! おはよう」
「凛ちゃん、おはよう」
スタジオの隅でスタッフさんと打ち合わせをしている音夢ちゃんを見かけて声をかけると、笑顔で返してくれた。
その笑顔は最初に撮影に来た時とは違って、すっかり場慣れした笑顔だ。
「見たよ~今月のスウィガ! 音夢ちゃんのソロ、可愛かった~」
音夢ちゃんに会ったら真っ先に伝えようと思っていたことを口にすると、
「ホント? ありがとう」
音夢ちゃんが少し照れたように笑って言った。
そう、今月発売された『Sweet Girls』で、音夢ちゃんは初めてソロ撮影に挑戦している。
赤を基調にしたちりめんプリントのジャンパースカート。
日本人形を思わせる和風ロリータだった。
「和ロリも可愛いよね」
「確かに、日本人ならではって感じがするよね」
なんて盛り上がっていたら、
「相変わらず仲いいな、ふたりとも」
メイクを終えたらしい七星くんが呆れたようにわたしたちの様子を見て言った。
「あ、七星くん、卒業おめでとう」
今日七星くんに会ったら言おうと思っていたことを言うと七星くんは一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに「ありがとう」と返してくれた。
無事に高校を卒業した七星くんは、4月から大学生になる。
ということは、わたしと七星くんがスウィガで仕事をするようになってからちょうど2年が経つんだ。
わたしがスウィガの読者モデルとしてデビューしたのは2年前の春。
ちょうど中学に入学したばかりの頃で、初めて撮影をした日は桜が満開でとても綺麗だったことを今でもよく覚えている。
緊張と不安でいっぱいだったわたしに、「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」と声をかけてくれたのが七星くんだった。
すでに一年前からモデルとして活動していた七星くんは、わたしにとっては先輩で。
たった一年しか違わないのに、すでに落ち着いて周りに気を遣えて、さすがだなぁって思った。
そして初めて間近で見た七星くんはとてもカッコ良くて、ただイケメンということではなく、内面から輝いて見えたんだ。
今思えばいわゆる一目惚れだったのかもしれない。
初めて一緒に仕事をしたその時から、わたしは七星くんのことを素敵だなって思ってた。
だけど告白する勇気がないまま約一年が過ぎて、私はスウィガの専属モデルになって、ようやくモデルの仕事に慣れてきた頃。
突然撮影スタジオに私と同い年くらいの女の子が現れた。
その子は七星くんの学校の後輩で、新しく始まる読者モデルコーナーのモデルとして七星くんが選んだ子だった。
おそらく今までモデル経験は一切ない完全な素人の子。
正直最初は本当にこの子と一緒に撮影するの?って不安に思った。
だけど、なかなかOKが出なくて今にも泣きそうで申し訳ないって表情をしている彼女を見たら、初めて撮影をした日のことを思い出した。
わたしだって、一年かかってやっとカメラの前でポーズをとることに慣れたんだ。
今日初めて撮影をする子がいきなり最初からいい表情なんてできるわけがない。
「言っとくけど、俺も凛も迷惑だなんて思ってないからな」
七星くんの言葉に、
「そうそう。わたしだって初めての撮影の時はすごいガチガチで何回も撮り直したんだから」
気がつけば思わずそう言葉を続けていた。
「最初から完璧にできる人なんていないんだから、大丈夫だよ。だから、もうちょっと頑張ろう?」
そして自然とそんな風に彼女を励ましている自分に自分でも驚いた。
必死に頑張っている姿が一年前の自分を見ているみたいで、なんとか一緒にいいものを撮りたいって思ったんだ。
これが“成長した”ってことなのかな。
それから、彼女……音夢ちゃんと一緒に仕事をする機会が増えた。
七星くんから、音夢ちゃんが学校でいじめられていて、カワイイ・プロジェクトというイベントで優勝できるようにするために読者モデルに選んだと聞いてますます頑張ってほしいって思う様になった。
そして、最初は自分に自信がなくて後ろ向きだった音夢ちゃんが一生懸命頑張っている姿を見て、わたしも勇気をもらった。
音夢ちゃんも七星くんのことを好きなんだろうなっていうのは、一緒に仕事をしているうちになんとなくわかった。
本来ならライバルなんだけど、音夢ちゃんがいい子だっていうことは仕事でわかっていたから、意地悪しようなんて気持ちは全くなくて。
むしろ、わたしもいじめられていたことがあるから、そんなことは絶対したくないって思った。
だから、「正々堂々と勝負しよう」って声をかけたんだ。
音夢ちゃんは、正直に七星くんのことが好きだと言ってくれた。
きっとすごく勇気を出して打ち明けてくれたんだと思う。
「お互い頑張ろうね」
そう言って交わした握手。
この時から、わたしと音夢ちゃんはライバルになった。
それから数週間後、久しぶりに七星くんとふたりだけの撮影の日。
撮影が終わった後、わたしは思い切って七星くんに声をかけて、誰もいない控室で初めて会った時から好きだったと告白をした。
一年以上ずっと一緒に仕事をしてきた仲間だし、もしかしたら七星くんも……ってほんの少し期待してた。
だけど、答えは「気持ちは嬉しいけど、凛のことは仕事仲間としてしか見られない」だった。
「もしかして誰か好きな人がいる?」
思い切って訊いてみると、七星くんはかすかに頷いた。
やっぱり、好きな人がいるんだ。
だとしたらその人はきっと……。
「音夢ちゃんでしょ?」
もう一度わたしが訊くと、七星くんは“どうしてわかったんだ”と言いたげな表情になった。
「わかるよ、好きな人のことなら」
最初に音夢ちゃんを撮影に連れてきた時から、なんとなく感じていたことだから。
わたしの言葉に、七星くんは観念したように話してくれた。
音夢ちゃんと初めて会った時のこと、今モデルとして活躍できているのは彼女のお陰であること。
そんな話を聞いたら、わたしが入る隙なんて最初からなかったんだってはっきりわかって。
フラれたことはもちろんショックだったけど、キッパリ諦めようって思えた。
今は、七星くんと音夢ちゃんが両想いになれて本当に良かったって思ってる。
これからもふたりとはいい仕事仲間でいられたらいいなって思っているんだ。
「それじゃ、三人とも撮影お願いしま~す!」
スタッフさんからの声に、わたしと音夢ちゃんは元気よ
く「は~い」と返事をしてセットの方へ移動した。
さあ、今日も最高の笑顔を見せよう!



