季節が少しずつ冬から春へと変わり始めた三月月三日。
ひな祭りの今日は夢ヶ咲学園の卒業式の日でもある。
会場は学園の近くにあるイベントホール。
有名アーティストがコンサートを開催するような大きなホールだ。
学園の王子様の卒業式ということで、もうすでに泣きそうになっているファンの女子生徒もいる。
皇月先輩は附属の大学へ進学することになっているけど、キャンパスは高校と違う所にあるから、卒業してしまったら学校で会うことはできなくなってしまうんだ。
卒業式は順調に進み、いよいよ終りに近づいてきた頃。
「答辞。卒業生代表、皇月 七星」
司会の先生に名前を呼ばれた皇月先輩が、ステージに立った。
周りから「やっぱり答辞は皇月先輩なんだ」とヒソヒソ声で話しているのが聞こえる。
広い会場で一年生は二階席にいるから先輩の姿は遠目にしか見えないけれど、やっぱり先輩は一際輝いて見える。
マイクの前に立って答辞を読み始めた先輩は、さすが生徒会長とモデルをしているだけあって、落ち着いて堂々としていて。
読み終えた後には会場から盛大な拍手が起きた。
そしてクライマックスの卒業ソングを歌う場面では、卒業生はもちろん、在校生からもあちこちですすり泣きが聞こえて来て、思わずわたしまで目が潤んでしまった。
無事に式が終わり、ロビーは記念撮影をする生徒や保護者で溢れている。
皇月先輩のところには当然ファンの人達が長蛇の列を作っていて、とても近寄って話しかけられる雰囲気じゃない。
もう諦めて帰ろうと出口へ向かった時。
「月島さん」
後ろから呼び止められて振り向くと、そこにいたのは如月さんだった。
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
そう声をかけられたけど、クリスマスパーティーの時みたいにまたいじめられたらどうしようという不安が胸をよぎった。
でも、如月さんがそんな私の気持ちを察したように「もう前みたいなことはしないから安心して」と言った言葉を信じて、話を聞くことにした。
「場所変えていい?」と尋ねてきた如月さんに頷いて、ふたりでホールの外にある広場へ移動した。
三月とは言えまだ風は肌寒い。
だけど、あと数週間もすればこの広場にある桜も咲き始めるんだよね。
なんてぼんやり考えていたら、
「……落ちちゃった」
わたしと如月さん以外誰もいない静かな空間に、ぽつりと落ちた言葉。
何のことだかわからずに戸惑っていると、「スウィガの最終選考」と言われて、そういえば受けるって話していたことを思い出した。
「皇月先輩にもフラれちゃったし、もう最悪」
そう言いながら自嘲気味に笑う如月さんは、今までとどこか雰囲気が違う気がした。
うまく言葉にできないけど、何かが吹っ切れたような、刺々しさがなくなったような感じ。
「でもわたし、諦めないから」
「え?」
「いつか絶対モデルデビューするから」
まっすぐわたしを見つめて言った如月さんの言葉に、皇月先輩のことじゃなくて
モデルのことかと内心ホッとしていたら。
「皇月先輩のこともね」
まるでわたしの心を読まれたかのような言葉に「えっ!?」と思わず大きな声が出てしまった。
「……と言いたいところだけど、あんな話聞かされたら悔しいけど諦めるしかないよね」
「あんな話?」
「皇月先輩の初恋の話」
「……あ……」
バレンタインの日に先輩が話してくれたこと、如月さんにも話していたんだ。
「でも、油断してたらモデルも先輩のことも遠慮しないからね!」
怒ったようにそう言いながらも、如月さんの表情はどこか優しくて。
初めて認めてもらえた、そんな気がして嬉しくて。
「わたしも遠慮しないから!」
宣戦布告されているのに、笑顔でそう答えていた。
「なんか、月島さん変わったよね」
「え?」
「なんていうか……明るくなった」
「そう、かな」
だとしたら、それは間違いなく音夢としてモデル活動を始めたおかげだ。
「……今まで色々ごめん」
それはとても小さな声だったけど、わたしには確かに聞こえた。
恥ずかしそうにうつむいた如月さんに、わたしは右手を差し出した。
「これからはお互い正々堂々闘おう?」
「……うん」
一瞬戸惑いながらもわたしの手を握ってくれた如月さんの笑顔は、やっぱり綺麗だなと思った。



