「ねぇ、今月号の『Sweet Girls (スウィート・ガールズ)見た?」
「見た見た!妃花ちゃん載ってるよね!」
「すごいよねぇ~妃花ちゃん」
朝の教室。
クラスの女の子達が輪になって雑誌を広げて興奮気味に話しているところに、「おはよ~」と可愛らしい元気な声が聞こえた。
「あ、妃花ちゃん!」
「 見たよ~今月の『Sweet Girls』」
「妃花ちゃん超カワイイね~」
本人の登場で、女の子達はさらに盛り上がり始めた。
『Sweet Girls』は、「カワイイは最強!」をコンセプトにゆめかわファッションや地雷系ファッションをテーマにした10代の女の子を中心に人気のあるファッション雑誌。
その最新号で、一般人を載せるコーナーに如月さんが載っているんだ。
ピンクを基調にしたリボンとフリルたっぷりのスイーツ柄ワンピースを着て微笑む如月さんは、まるでおとぎの国のお姫様みたい。
「これ、『Pinky Candy』(ピンキー・キャンディー)の最新ワンピだよね。妃花ちゃん、もう持ってるんだ」
「うん。お母さんに買ってもらったの」
「いいな~。ここの服って高いんだよね~」
「やっぱり元モデルのお母さんは違うよねぇ」
如月さんを取り囲んでいる子達が羨ましそうに口にしている。
如月さんのお母さんは、結婚するまでファッションモデルをしていたらしい。
パッチリ二重も、透き通るように白くて綺麗な肌も、165センチの長身も、きっとお母さんゆずりだ。
「そういえば、今読者モデル募集してるんだよね。妃花ちゃん応募してみたら?」
「うん。実はそのつもりなの」
「そうなの? 妃花ちゃんなら絶対選考通るよ!」
「そうそう。誰かさんみたいな地味子じゃムリだろうけど~」
女の子のひとりが、わたしの方に視線を向けてわざと大きな声で言った。
「確かに、あれじゃムリかもね~」
如月さんもそう言ってクスクスと笑っている。
「ねぇねぇ、もし読モになれたら、凛ちゃんに会えるのかな?」
「うん。会えるんじゃないかな」
「そしたら妃花ちゃん、サインよろしくね!」
「ちょっと、気が早すぎだって~」
如月さんを中心に楽しそうに盛り上がる女の子達。
そんな女の子達の輪に入れず、ただ自分の席で静かに過ごすわたし、月島 美夢は、クラスで “地味子”と呼ばれ、いつもひとりで過ごしている。
黒髪を二つ結びにしてメガネをかけて、スカートは校則通りのひざ下丈をキープ。
小さな一重の目に、150センチの特に目立たない地味な顔立ち。
我ながら、まさに絵に描いたような地味子だと思う。
小さな頃から、よく「名前は可愛いのに」って言われてきた。
それはつまり「可愛いのは名前だけ」という意味で、わたし自身は可愛いどころかブスだと遠回しに言われている気がして。
そんな風に言われる度に、わたしは自分の名前が嫌いになっていった。
美しい夢なんて、どう考えてもこんなわたしには似合わない名前をつけたのはお母さん。
少女漫画やキラキラしたものが大好きなお母さんが考えた名前。
わたしの両親は共働きで、家に帰ってくるのはいつも深夜。
海外の仕事で数週間家にいないなんてこともしょっちゅうだ。
だけど、教育には厳しくて、小さな頃から習い事や家庭教師をつけられていた。
おかげで、学校の成績はいつもトップ。
だから、小学生の頃からあだ名は「ガリ勉地味子」だった。
「あ~それにしても皇月先輩カッコイイよねぇ」
机に広げた雑誌を見ながら、うっとりした表情でつぶやく女の子達。
表紙には、光の世界の王子をモチーフに、白を基調にした王子様ファッションをした皇月 七星先輩が写っている。
皇月先輩は、わたし達が通っている夢咲学園中等部の3年生で、「学園の王子様」と呼ばれている。
芸能活動が認められているこの学園で、ファッションモデルとして活躍しつつ生徒会長も務めている超有名人。
入学する女子生徒のほとんどは皇月先輩のファンだと言われているほど。
実際、入学式で生徒会長として挨拶をしていた皇月先輩はクールな美少年と言う言葉がピッタリで、式が終わった後はみんな先輩の話で盛り上がっていた。
そんな校内の女子誰もが憧れる学園の王子様の隣には、今『Sweet・Girls』専属モデルとして圧倒的な人気を誇る夜咲 凛ちゃん。
闇の世界の王女をモチーフに、黒とピンクを基調にした地雷系ワンピースを着ている。
美男美女のふたりはとてもお似合いで、まるで映画のワンシーンから抜け出したみたい。
凛ちゃんと皇月先輩は、わたしにとっても憧れの存在。
いつも地味なわたしだけど、本当はオシャレしてみたい。
メイクもしてみたいし、凛ちゃんが着ているような服だって着てみたい。
だけど、きっとわたしなんかが着たって似合わない。
こういう服は、凛ちゃんや如月さんみたいに可愛い子が着るから可愛いんだ。
如月さんは読モ応募するつもりなんだよね…。
わたしだって如月さんみたいにパッチリ二重だったら、色白で肌が綺麗だったら、
整った顔立ちだったら、もっと背が高かったら。
自分に自信があったら、迷わずに応募するのに。
だけど現実は……如月さんの言う通り、わたしみたいな地味子じゃムリだ。
そんなの、自分が一番よくわかってる。
地味子と王子様じゃ分不相応なのは充分わかってるけど、憧れるくらいはいいよね?
いつかわたしもふたりみたいに輝ける日が来ることを夢
見るくらいはいいよね?
スマホの待ち受け画面にしている凛ちゃんと皇月先輩を見つめながら、心の中で自分に言い聞かせた。



