恋は手のひらの上で

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エレベーターを降りて椎名さんと別れたあと、ふぅ、と息をついた。
この数時間に目まぐるしい感情の浮き沈みと、迫られた決断。緊張がとけて、どっとヒールに疲れが押し寄せる。

外に出て駅まで歩くか、タクシーでも拾ってしまおうか。
考えを巡らせながら歩きだそうとしたその時。


「西野、お疲れ様〜」

聞き慣れた軽い調子の声が、いるはずのないこの会社のロビーのどこかから聞こえてきて反射的に足を止めた。

驚いて辺りを見回すと、ロビーのソファに足を組んでリラックスしたように座っている高橋。

目を疑った。どうしてここに?


彼が立ち上がった瞬間、視線が彼の首元に吸い寄せられる。
高橋のネクタイ。

結び目が少しどころか、だらりと下がっている。

緩んだまま、直していない。
なんなら、第一ボタンも外れている。

いつも通りの、少しラフな格好。腕には、シワになったジャケットがかけられていた。

でも今日は、その“いつも通り”がやけに目につく。


「えっ……なに、なんで」

戸惑いがそのまま口をつく。
私が呆然としている顔が面白かったのか、高橋はにやりと笑った。

「近くで打ち合わせあったから、一緒に会社に戻れるかなぁって思って来た」

と、見事なまでの即答。

「ねぇ、絶対、うそでしょ?」

「ほんとほんと」