恋は手のひらの上で

私はバッグを持ち、彼もファイルを持ったまま会議室を出る。
廊下の空気は、さっきより軽い。

エレベーターホールまで歩き、ボタンを押したところで私は彼を振り返った。

ホールにある大きな窓は薄暗くなっていて、会議室でどれだけ濃い時間を過ごしたかを示すようだった。


「ここまでで大丈夫です。確認事項はまた追ってご連絡します」

すこしの沈黙。
彼は私の肩越しに外を見て、そして視線を私に戻した。

「俺も、コンビニに寄りたいので」

ちょうどタイミングよく、私たちのいる階にエレベーターが到着する。

「下まで送ります」

エレベーターの扉を押さえてそう言われ、はい、と小さく返すだけで精一杯だった。

少しの申し訳なさと、まだ一緒にいられるのかという少しの期待。


誰も乗っていないエレベーターで二人きり。

静かな箱の中で、空気が少し変わる。
数字の話は、もうない。
階数表示がゆっくり減っていく。

私は視線の置き場に困り、正面の鏡を見ると、隣に立つ椎名さんが映る。