恋は手のひらの上で

私は返事ができず、画面の価格欄を見つめることしかできなかった。

『2,800』

数字はただの数字なのに、妙に重い。
三千円にすれば、すぐに成立する。

分かっている。
でも、それは自分の修正だ。
一度通した提案を、自分で上書きすることになる。

私はキーボードに指を置いたけれど、どうにも覚悟が決まらなくて、打てなかった。


「決めるのは、西野さんです」

椎名さんは、そう言った。


押してこないし、誘導もしない。
ただ、私に判断を委ねる。

静かな部屋で、心臓の音だけがやけに大きい。

私はもう一度、粗利の計算式を見た。

3.0%、広告単価、原価。

冷静に並べる。感情を、脇に置く。

守りたいのは価格じゃない。
このプロジェクトだ。

カーソルが、ずっと価格欄で点滅している。迷うように。

『2,800』─────

私は一度だけ目を閉じる。
そして、深呼吸した。