恋は手のひらの上で

「まず、前提をそろえましょう」

と、椎名さんが私のパソコンを軽く指差す。

「CVR3.0で置いた場合、どこが一番きつくなりますか?」

彼が言いたいのは、感情ではなく、構造の話だ。
私は画面を見ながら答える。

「粗利率です。初期広告費を…吸収しきれません」

「そうですね」

即答。責めない。
ただ、事実を並べる。彼はいつもそうだ。

「もしも二千八百円を守りたいなら、CVRを3.7で取りにいくしかないです」

淡々とした声で続ける。

「でも、市場平均は3.0に近い」

言われていることは、分かっている。
だからこそ、揺れている。自分でも分かっているのだ。

「西野さんは、二千八百円にどれだけ意味を置いてますか?」

今度はたぶん、数字ではない質問。

私は画面を見つめたまま、少しだけ息を止めた。

「……初動の心理的ハードルを下げたいんです。若年層が“試してみよう”と思えるラインなので」

言葉にすると、自分のこだわりが輪郭を持つ。
このこだわりが、じわじわと自分の首を絞めてくる感覚さえ覚えた。

椎名さんはうなずいた。
決して否定することなく、

「いい設計だと思います」と、ひと言。

その一言に、胸がわずかに軽くなる。

「ただ」

彼はもう、画面は見ていなかった。
たぶん、画面を見ているのは私だけ。
きっとこの場面が重要局面なのを、私も彼も知っている。

彼は私の横顔を、たぶん見ている。

「守ることと、成立させることは別です」

静かに、置かれた言葉。