恋は手のひらの上で

上代、二千八百円。
前回、この会議室で通した数字。

自分で提案して、自分で守った価格だ。
それが今、揺れている。

価格を上げる。その選択肢が、頭のどこかで浮かぶ。

三千円。
わずか二百円。

でも、意味は大きい。

言えばいい。
言えば、設計は安定する。

─────でも、二千八百円でやりたいと言ったのは、私だ。

若年層への心理的ハードル。
トライアルの敷居。
ブランドの立ち上げ価格。

全部、私の言葉だった。


頭の中が真っ白になりかけている私に、クリアな声が届く。

「価格以外で吸収する方法もあります」

椎名さんだった。
彼は冷静で、遠い。
今の私とは真逆のところにいる。いつも。

助け舟にも聞こえるし、試されているようにも聞こえる。

「CVR改善に振り切るか、初期広告費を抑えるか」

彼の言葉で、鈴木さんのキーボードを打つ音が止まった。