恋は手のひらの上で

久我さんがペンを止める。

「3.7%はテスト値ですよね。市場平均でいくと3.0が妥当では?」

正論。

分かっている。
分かっているけれど。

二千八百円で組み上げたあの設計は、3.7を取りにいく前提だった。
広告導線も、レビュー施策も、クリエイティブも、全部。


椎名さんが静かに口を開く。

「西野さん、初期フェーズで3.7を安定して出せる根拠は、ありますか」

責める声音ではない。
ただ確認しているだけだ。

それなのに、喉が少し乾く。

「…A/Bテストの初期データでは到達しています。ただ…、母数がまだ少なくて…」

言いながら、自分でも分かる。

“まだ少ない”。
つまり、確証ではない。

黒田さんが向こう側で資料をめくる音を立てた。

「うーん、CPA六千円台だと、上代二千八百円ではROIが薄くないですか?」

その言葉が、少し雑にテーブルに置かれるような気がした。