恋は手のひらの上で

「次に、初期CPAとROIの説明に移ります」

私はあらかじめ用意しておいた画面に切り替える。

ところが、ここで表れた数値が予定していたものではなかった。


「─────あれっ?」

思わず漏れた声は、完全に素の声。
室内の視線が一斉に私へ集まる。

私はただただスライドの画面を見つめていた。
並んでいるのは、想定よりも重い数字。

「西野さん、どうした?」
と、課長が声をかけてくれるも、答えられない。

思案している私に気づき、会議室の視線も自然とスライドへ向けられる。


CPA、六千八百円。
私の資料では、五千二百円で設計していたはずだ。

「すみません!」

鈴木さんが慌ててキーボードを打つ。

「社内検証用の前提が反映されたシートを開いてしまって…。いえ、昨日更新した広告単価を入れたら、この数値になっていて…」

指先が焦っているのが、向かい側からでも分かる。

どこ?と椎名さんが彼のパソコンを覗き込んでいるのが見えた。


黒田さんが腕を組んだまま口を開く。

「鈴木くん、前提CVRはいくつで置いてる?」

その問いかけを受けて、鈴木さんが画面を確認する。

「えーっと…3.0%です」

その瞬間、胸の奥がひやりとした。
私は3.7%で設計している。