恋は手のひらの上で

••┈┈┈┈••


会議室に、足を踏み入れる。

東央ヘルスケアの本社に来たのは、これで二回目だ。
前回と同じフロア、同じ会議室、同じような時間。
ガラス張りの綺麗な部屋。

何度来ても、慣れない。
少しの憧れと、隠し切れない緊張。

長テーブルが並べてあり、手前に私と朝倉課長。
窓際に、前と同じ顔ぶれの椎名さん、黒田さん、久我さん。そしてもう一人初めて見る顔がいた。

私より若そうな男性で、明らかに緊張を見て取れるような硬い表情。


私たちが会議室へ入ると、その彼がすぐに「はじめまして」と立ち上がってこちらへやって来た。
名刺を差し出す彼の表情は、やはり硬い。

…あ、前回の自分みたいだ。
手が震えて、数字に詰まったあの瞬間の自分を思い出す。

「今回から分析補助で入ります、鈴木と申します」

たぶん、彼もこういった場所で仕事をするのは、初めてなのかもしれない。
ちょっとした親近感を感じる。

私と朝倉課長が渡した名刺を見つめるように読んでいる鈴木さんの後ろで、椎名さんが微笑んだ。

「西野さんが一人であれこれ数値の入力をするのは大変だと思いましたので、こちらで鈴木を呼びました。本日は、よろしくお願いします」

椎名さんの落ち着いた声は、静かに空間に溶けていく。


少し間が空いて椎名さんに会ったはずなのに、どこか記憶に残る不思議な印象。
午後の光を受けた色素の薄い眉と、耳にかかりそうなぎりぎりの長さの髪は、どこか都会的な香りがした。