恋は手のひらの上で

私は画面をスクロールし直す。

誤字はない。論点も的確。
感情は、一切ない。

感情がないことが、逆に距離を示されているようで、少しだけ悔しい。

褒められてはいない。
認められてもいない。

ただ、対等に扱われているだけ。
…それだけで、十分なはずなのに。


返信ボタンにカーソルを合わせて、止まる。

すぐ返すのは、焦っているみたいで嫌だ。
かといって、時間を空けすぎるのも違う。
こういう距離感が、いちいち難しい。

受信時刻、七時十二分。
彼は何時に会社に来ているのだろう。

ネクタイはもう締め終わっていたのだろか。
きっと皺ひとつなく、まっすぐに。

─────なんでそんなこと考えてるの。


私は小さく首を振った。

ちゃんと、メール返さなきゃ。
仕事に集中しなくては。


それなのに『急ぎではございません』というその一文だけが、やけに柔らかく見える。

急いでいないのは、向こう。
焦っているのは、私。