恋は手のひらの上で

私は慌ててグラスの縁を意味もなくこする。
ワインが照明に反射してゆらゆら揺れた。まるで私の心を投影しているみたいに。

「…いや、なんでもない」

「絶対あるじゃん!」

二人とも、もう興味津々。
これは逃げられないか、と観念する。

「手がきれいだった」

「「手?」」

食いつきがすごい。ハモってる。

「いや、違うの、べつに。名刺交換のとき、なんか丁寧だなって思っただけ」

そう、丁寧だった。
指が長くて、無駄な力が入っていなくて。

きちんと目を見て、名刺を差し出してきた。

あの時、はっきりと思ったのだ。
“─────あ、私の好きな手だ”と。

麻耶が詰めてくる。

「手を見たの?」

「見てない」

即答したけど、嘘だ。見た。
自分でもよく分からない。
顔より先に、そこを覚えているなんて。

「見てるじゃーん。名刺交換で見てるじゃんかー。芽依って変なとこ見るよね」

紗英がそんなことを言うものだから、こちらも言い返す。

「変ってなに?」

「なんだろう、手のディテール?好きだよね、人の手見るの。手フェチっていうの?」

─────言い返せない。


「で? 高橋は?」

女子会ならではで、すぐにコロッと話題が変わる。
こういうところが紗英らしい。

ほっとしたような、でもまた逃げ場を失ったような気持ち。
今度は麻耶からの猛追を受けることになる。