恋は手のひらの上で

これは、私が来る前になにか話し込んでいたな。
察して目を細めていると、麻耶が余裕のある微笑みを浮かべた。

「でも本当のことでしょ?私たち心配してたんだよ。今回の案件の担当が芽依になってから、毎日残業して頑張って準備してる姿を見てきたから」

「…うん、ありがとう」

“頑張ってる”と言ってくれると、認めてもらえているみたいで思わず綻ぶ。

「スキンケア用品だから、あちらの担当も女性?」

「ううん。男性だった」

私の返答に、ふたりとも「えっ」と目を丸くした。

「私よりは少し年上だと思うんだけど。そんなにいってないと思う。商品戦略部の主任って名刺に書いてあったけど、思ったより若いなって印象」

紗英はカクテルをくいっと口に運ぶと、チーズをつまんだ。

「そういうところの主任ってなると、なかなか怖いの?」

「うーん…怖さはないけど。落ち着いてて、ちゃんとしてる感じ」

「シゴデキ?」

少しだけ考えてからうなずく。

「まあ。開始三分で指摘された。初めて任されてるの、たぶんバレてる」

今日の会議室でのやり取りを思い出し、椎名さんの質問に答えるたどたどしい自分がだいぶ小物に見えてしまった。
資料を何度めくったか。何度パソコンやタブレットを見たことか。


「顔は?」

と、麻耶が尋ねてくる。
彼女の手にはビールジョッキ。

─────顔、か。

頭の中に、穏やかな目元が浮かぶ。
それから、光を受けるとやわらかく透ける焦げ茶の髪。
これといって、顔の印象がない。

「うーん…顔は普通、かな」

「普通ってなに?」

「目立つタイプじゃないというか」

自分で言っていて、曖昧だと思う。
「それよりも」と言いかけて、思いとどまる。

「それよりも?」

きらりと紗英の目が光るのが見えた。