「えっ、寝過ごすんですか?」
驚いたような顔をしている彼は、私のグラスのワインの残量をちらりと確認していた。
たぶん、何杯飲んだか計算してるんじゃなかろうか。
「はい。一駅とかじゃなくて、普通に終点まで」
自分で言ってから、吹き出してしまった。
「気づいたら知らない駅で、すごい絶望するんです」
「お酒を飲んだ日は、危ないじゃないですか。今日も」
「だーいじょうぶなんです!」
言ってから、また笑う。
「今までだって、なんとかなってますから」
自慢するつもりでグラスを持ち上げる私を、楽しげに椎名さんは眺めていた。
それから小さく息を吐いて、少しだけ笑った。
その笑みは、おそらく笑いをこらえている。
「その“だいじょうぶ”は、あまり信用できないな」
「どうしてですか?」
私は思わず不服そうな声を出してしまった。
「なるほど。西野さんはお酒が入るとよく笑うんですね」
顔を上げると、椎名さんと目が合った。
その視線が、さっきより少しだけ柔らかい。
「そしてよくしゃべる」
あまりに優しい表情だったので、どきりとした。
慌ててごまかすみたいにワインを飲んだ。
「引きました?」
「いえ、楽しいです」
椎名さんのグラスは、もう空だった。
でも私と違って、なにも変わらない。どうやらだいぶ強いらしい。
そのグラスを支える手が、ふと目に入る。
少し袖をまくった腕、黒革ベルトの馴染んだ手首、長い指と整った爪。
線は細いのに、どこか力強い。
「私…、椎名さんの手が、好きなんですよね」
ぽろりとつぶやいてしまった。
驚いたような顔をしている彼は、私のグラスのワインの残量をちらりと確認していた。
たぶん、何杯飲んだか計算してるんじゃなかろうか。
「はい。一駅とかじゃなくて、普通に終点まで」
自分で言ってから、吹き出してしまった。
「気づいたら知らない駅で、すごい絶望するんです」
「お酒を飲んだ日は、危ないじゃないですか。今日も」
「だーいじょうぶなんです!」
言ってから、また笑う。
「今までだって、なんとかなってますから」
自慢するつもりでグラスを持ち上げる私を、楽しげに椎名さんは眺めていた。
それから小さく息を吐いて、少しだけ笑った。
その笑みは、おそらく笑いをこらえている。
「その“だいじょうぶ”は、あまり信用できないな」
「どうしてですか?」
私は思わず不服そうな声を出してしまった。
「なるほど。西野さんはお酒が入るとよく笑うんですね」
顔を上げると、椎名さんと目が合った。
その視線が、さっきより少しだけ柔らかい。
「そしてよくしゃべる」
あまりに優しい表情だったので、どきりとした。
慌ててごまかすみたいにワインを飲んだ。
「引きました?」
「いえ、楽しいです」
椎名さんのグラスは、もう空だった。
でも私と違って、なにも変わらない。どうやらだいぶ強いらしい。
そのグラスを支える手が、ふと目に入る。
少し袖をまくった腕、黒革ベルトの馴染んだ手首、長い指と整った爪。
線は細いのに、どこか力強い。
「私…、椎名さんの手が、好きなんですよね」
ぽろりとつぶやいてしまった。



