恋は手のひらの上で

椎名さんは、その返事にほんの少し目元を緩めた。
ちゃんと、笑った。

会議中の理知的な顔じゃない。
柔らかい、個人の顔。

「よかった」

低く、短く。
そして間を置かずに続ける。

「二人で行きましょう。ワインの美味しいお店、探しておきます」


直球。変化球なし。言い淀みなし。

私の心臓の音がだだ漏れになっていないか心配なくらい、うるさい。
この人って、こういう一面もあるのかと驚いた。

呼吸が一拍遅れる。
“二人で”って言った、間違いなく。
心臓がうるさい。


さっきまであれだけ冷静にデータ説明してたのに、いま何ひとつ整理できない。

少し前に聞こえた足音は、こちらではないどこかへ消えていった。
肩の力が抜ける。


「いつにします?西野さん、忙しいと思うので」

もうスマホを出してスケジュールを見ている彼の横で、バタバタと書類が落ちてしまって慌ててしゃがんだ。
すぐに椎名さんが散らかった書類を集める作業を手伝ってくれる。