隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

 その日の夜。セイラは寝る支度を済ませて、聖女としての祈りを捧げていた。ソファに座りながら両手を胸の前で組み、静かに瞳を閉じる。

ーーこの国とこの国に住まう人々に、希望の光が降り注ぎますように

 セイラの祈りと共に、セイラから光が溢れ、それが一瞬でレインダム全体へ広がる。祈りが終わり、ほうっとセイラは静かに息を吐いた。

(ルシアはちゃんとポリウスで祈りを捧げているのかしら)

 セイラがいなくても何も問題ないとルシアは言っていたが、聖女としての仕事は全部セイラに任せてあぐらをかいていたのだ。果たして聖女としての力をきちんと発揮することができているのかどうか。

(考えたところでどうにもならないのよね、私はもうポリウスではなくレインダムの聖女になったのだし)

 そう思っていた時、ドアがノックされた。

「はい?」
「俺だ。入っても構わないだろうか」
「はい、大丈夫です」

 ドアが開いてダリオスが部屋に入ってくる。騎士服ではなく屋敷の中で過ごすようなラフな格好だ。きっと湯浴みも済ませたのだろう、いつもよりさっぱりとしている。さっぱりしているのに、なぜか色気があるような気がしてセイラは胸が高鳴った。

(ダリオス様、騎士姿も素敵だったけれど、こうして普段の装いでも目をひく素敵さだわ。それに……なんというか色気がすごい)

 ドキドキしてしまっていることに気づかれないよう、ダリオスから視線をそらす。ダリオスはそんなセイラに気づかず、セイラの隣に腰掛けた。

(と、隣に来た……!)

 ふわり、と上品ないい香りがする。今までお互いにラフな格好で男性とこんなに近くにいることのなかったセイラは、緊張してダリオスを見れない。

「すまない、もう寝る前だったのか」
「いえ、大丈夫です。聖女として祈りを捧げていたので、まだ起きていました」

 セイラはぎこちなく笑顔を向けるが、ダリオスを直視できていない。ダリオスは少しだけ眉を顰めたがすぐに真顔に戻った。

「腕の浄化についてだが、どのくらいの頻度で行えばいいだろう。俺は任務で屋敷を不在にすることもあるが、屋敷にいるときはなるべく君の指示に従おうと思っている」

 真剣に腕のことを話されて、セイラはハッとする。

(そうだわ、照れている場合ではないのよ。私はダリオス様の腕を治すためにここへやってきたのだから。一番大事なことを忘れるなんて聖女として失格だわ)