隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません




「それでは、ダリオス様の腕についてお話ししましょう」

 セイラがダリオスの屋敷にやってきた翌日。応接間で、ダリオスとクレア、セイラは三人で話をしていた。

「領地内に瘴気のひどい土地があるのですが、そこで凶暴な魔獣が多数現れたため、騎士であるダリオス様は魔獣の討伐に向かいました。そこで魔獣を倒すことはできたのですが、その際にダリオス様は他の騎士を庇って左腕に怪我を負いました。ダリオス様の左腕が発症したのはそれからです」
「怪我をした際に瘴気が傷口から中に入り込み、内部から侵食している、ということですね」
「恐らくそういうことだと思います。病のことは、騎士団の中では当時一緒に任務に行っていた団員たちと騎士団長しか知りません」

 瘴気は一般の人間には見えない。瘴気が見えるのは魔力が格段に強い国内でも限られた魔術師や、騎士団の中でも限られた人間だ。そのため、ダリオスの左腕から浮かび上がる瘴気にほとんどの人は気が付かない。
 レインダム最強の黒騎士ダリオスが左腕を患っていると知れば、他の国から好機と思われ攻められてしまうかも知れない。それを危惧して、国王はダリオスの病をごく限られた一部の人間にしか公表しておらず、知っている人間には箝口令(かんこうれい)を敷いていた。

「私の治癒魔法で瘴気の力を抑えることはできますが、私が使えるのはただの魔法。聖なる力ではないので浄化はできず、瘴気を消すことはできません」

 ダリオスは左腕を目の前に出すと、腕まくりをした。左腕にはうっすらと黒いシミのようなものが浮かび上がっている。

「普段はもっと黒く、はっきりとしている。きっと昨日あなたに浄化してもらったおかげで、今はこのくらいの薄さになっているんだろう」

 そう言って、ダリオスは袖を元に戻した。

「セイラ様には、このダリオス様の病を治していただきたいのです」
「わかりました。これだけ内部に侵食しているとなるとすぐに、とはいかないと思いますが、時間をかければ徐々に治せるとは思います」

 セイラの言葉に、ダリオスとクレアは目を合わせて笑顔になる。

「この国には聖女がいない。ずっとこの病と向き合って生きていかなければいけないと思っていたが、あなたが来てくれて本当によかった。ありがとう」
「そんな、きちんと治ったわけではありません。まだお礼を言われる程のことはしていませんので」

 両手を大きくふって慌ててセイラがそう言うと、ダリオスとクレアは微笑む。

「実は、ポリウスの聖女様は高飛車で傲慢だという噂を聞いていたんだ。だから、まさかこんなに謙遜されるとは思わなかった。噂は偽りだったんだな」

(高飛車で傲慢……まさか、ルシアのこと……?)

 ルシアの普段の態度を思い出してどきりとする。ルシアはセイラだけではなく、城内や街の人たちにも常に上から目線だった。聖女として表舞台にでているのはルシアなので恐らくはルシアのことなのだろうが、まさかそれが噂話で隣国にまで伝わっているとは思わず、セイラは思わず苦笑いをする。

「そうだ、セイラ様。腕輪に、セイラ様の力を付与することは可能でしょうか?」
「腕輪に、私の力を?」
「はい。なるべくダリオス様の側に一緒にいていただくつもりではありますが、それでもやはりセイラ様を危ない場所へお連れするのは気が引けます。万が一ダリオス様がセイラ様と離れることがあっても、セイラ様の力を腕輪に付与しておければと思いまして」
「わかりました。実際にやってみないとわかりませんが、試してみます」
「ありがとうございます。腕輪の仕組みについてなのですが……」

 クレアとセイラが和気あいあいと話をしている横で、ダリオスはなんとなくつまらなそうな顔をして二人を眺めていた。クレアと話をするセイラの笑顔は可愛らしく、その笑顔がクレアに向けられていることがなんとなく気に食わない。胸の中がもやもやとして、嫌な感じがしている。なぜそんな気持ちになるのかわからず、ダリオスの表情に不機嫌さが増していく。
 そんなダリオスをクレアは横目でチラリと見ると、フフッと小さく笑みをこぼした。