隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません




 その日の夜。自室でいつものように祈りを捧げ、セイラがそろそろ寝ようかと思っていた時、ドアがノックされた。

「はい?」

(こんな時間に誰かしら?)

「俺だ。入ってもいいだろうか」
「……えっ、はいっ」

(ダリオス様?一体どうなさったのかしら)

 セイラは立ち止まり驚いてドアを見つめると、ドアを開けたダリオスが部屋へ入って来た。ダリオスはセイラに気を遣って夜に部屋を訪れることはあまりない。こんな夜遅くにやって来るなんて、きっとよっぽど何か理由があるのだろうとセイラは思った。

「こんな時間にすまない」
「いえ、どうかなされたのですか?」

(ダリオス様、表情が暗いわ。何かあったのかしら。もしかして、また腕の状態が悪くなったとか?)

 浄化は順調に進んでいたはずだ。だが、何かのきっかけでまた瘴気が濃くなる可能性も全くないわけではない。セイラが真剣な顔で聞くと、ダリオスはセイラの片手をそっと取って、ソファに座るよう促す。セイラは戸惑いつつもソファに座り、すぐ隣にダリオスも座った。

「あの、ダリオス様?顔色が良くありません。もしかして、腕の調子がよろしくないのですか?」
「いや、腕の調子は問題ない。……この腕はあとどれくらいで完治するだろうか」
「そうですね、このままいけば、一ヶ月以内には完治するかと思います」
「一ヶ月以内か……」

 ダリオスはセイラの返答を聞いて顔を曇らせる。一体、どうしたというのだろう?一ヶ月では遅いのだろうか?

「なるべく早く完治させることをお望みであれば、最大限の努力をします」

(理由はわからないけれど、ダリオス様が望むのであれば叶えて差し上げたい。……治ってしまったら、もう私は用済みでポリウスに帰されてしまうかもしれないけれど)

 胸がチクリと痛む。レインダムでダリオスと共に過ごした日々は、毎日がとてもキラキラと輝いていた。そんな日々がもうすぐ終わってしまうのは悲しい。何より、ダリオスと離れ離れになってしまうことがセイラにはとてつもなく辛いことだった。

(ダリオス様と離れるのが嫌だと思うなんて、そんな資格私には無いのに。私はただダリオス様の腕を治すためにいるのだから)
 
 セイラが悲しげに床を見つめていると、ダリオスは掴んでいたセイラの手を強く握り締めた。それに気づいたセイラが顔を上げてダリオスの顔を見ると、ダリオスの表情は辛そうだ。

「セイラ嬢。君はもし、ポリウスから帰ってこいと言われたら、帰りたいと思うか?」
「……え?」