隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

「私が、隣国レインダムへ……?」
「そう、レインダムに売られるの。よかったわね、聖女として役割ができて」

 驚いて双子の妹を見つめる聖女セイラの金色の髪の毛が、はらりと肩にかかる。スカイブルーの綺麗な瞳を揺らしながらセイラが戸惑っていると、セイラを見下すようにあざけ笑いながら双子の妹のルシアが言った。

 小国ポリウス。この国には王家の血筋から聖女が必ず二人生まれる。双子で、片方が表舞台に立ち聖女として力を奮い、もう片方は裏方として表舞台に立つ聖女を支えるのだ。どちらが表になりどちらが裏になるかは、特に決まっていない。ただ、成長するにつれて自然とその役割は決まるのだった。

 双子の姉であり内気なセイラは裏聖女、妹で活発なルシアは表舞台に出る聖女となって、この国を盛り立ててきた。

「セイラよ、隣国レインダムには聖女がいない。我が国には聖女が二人いることを嗅ぎつけて、一人欲しいと言われたのだ。もちろん、政治的材料としてでもある。お前を差し出せば、今こちらに向かわせている軍をひいて和睦に応じると」

 小国ポリウスは隣国レインダムと長い間戦っていた。国を広げたいポリウスがレインダムに戦をしかけたのが事の始まりだが、レインダムはポリウスに簡単に負けるほど弱い国ではなかった。むしろ今ではポリウスが劣勢になっている。
 ポリウスにとっては今が戦を止める絶好のチャンスだ。セイラたちの父である国王は、セイラに懇願するように言う。

「どうか、我が国のためだと思って隣国へ行ってはくれないか。お前が行けばすべてが丸く収まる」
「そ、んな……」

(つまり私は本当に国の材料として隣国に売られるということなのね……?こんな、急に)

 セイラは俯き、両手を胸の前でぎゅっと握り締めた。それを見てルシアは気に食わないと言うような瞳でセイラを見る。

「セイラ、お父様はこんな風に言ってるけど、セイラに決定権はないのよ?明日には迎えがくることになってるんだから」
「明日!?」

 セイラが驚愕の眼差しで国王を見ると、国王はバツの悪そうな顔で目をそらした。

(そもそも、私はずっと裏聖女として何の決定権もないまま生きてきた。ただ、使われるだけの人生)

 ルシアが表舞台に出る聖女として振舞うようになってから、セイラはルシアの裏で聖女としての力を奮ってきた。ルシアにも聖女の力はあるが、ルシアが聖女として天変地異を沈めたり瘴気を消したりしたわけではない。そんなことは自分がせずともいいと、すべてセイラに押し付けて、手柄だけは表舞台に立つ聖女としてルシアが横取りしていたのだ。セイラがルシアの裏側で天変地異を沈め、瘴気を消し、国のため民のために力を奮っていた。

「……私がいなくなった後は、ルシアがちゃんと聖女として力を奮うのですか」
「何よ、私はセイラがいないと何もできないとでも思ってるの?失礼ね!私だって聖女の力ぐらいいつだって発揮できるわよ、馬鹿にしないで!」

 カッとなってルシアがセイラに食って掛かる。

(ルシアは今まで自分で聖女の力を使ったことなんてほとんど無かったのに、大丈夫なのかしら……でも、気にしたところでどうしようもないわよね。私が隣国へ行くことは決まっていることなのだし)

「……ごめんなさい。そんなつもりで言ったのではないの。わかりました、明日、出立します」

 セイラはそう言って静かにお辞儀をすると、国王とルシアの前から立ち去った。