冷や汗は止まらず、口内は乾く。
ああ俺はどうしてこの男の目の前に居るんだ。
調査報告書では、こんな恐ろしい人物だなんて書いていなかった。
「惣倉にらお化けが居るんだと」
男は先端の尖ったナイフを撫でながら語る。
「そのお化けは惣倉でも異様な存在だから化け物って呼ばれているんだ。初めは信じなかったよ」
撫でられた器具は喜ぶように煌めく。
「だって、まさか自分がその化け物だと思わなかったから」
そう言いながら震える俺を見て鼻で嗤う。
黒く、暗い瞳が俺を嘲笑う。
渇いた喉から言葉が漏れ出る。
「なんで、俺なん、だ」
「何で?」
首を傾げる姿は年相応なのに、狼が羊の皮を被っている様にしか見えない。
「一応契約でさ」
「…けい、約?」
「そう。でも個人的感情の方がおっきい」
契約?個人的感情?何の話だと言い掛けて、
「い!」
前髪をグッと持ち上げられた。
人を軽々と殺す事が出来る瞳が俺に狙いを定める。
息が止まる。
「ーーーお前が先輩に手を出した事が死ぬ程ムカつくんだよ」
低く、地の底を這う様な声と共に、振り上げられた器具。
漸く自分が怒らせてはいけない人間を怒らせた事に気付くが、後の祭りだった。



