その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない




 辿り着いたのは、ビルの隙間にひっそりと佇む『十二社裏公園(じゅうにそううらこうえん)』だった。
 今は平日の午前。オフィス街の喧騒から切り離されたこの場所には、遠くで聞こえる車の走行音と、花壇の手入れをする管理人の老人しかいない。


「……この辺りなら、良さそうだ」

 景は、日当たりの良い柑橘系の植え込みの前で足を止めた。
 彼は優しく、自分の肌から幼虫を葉の上へと移す。その手つきは、まるで壊れやすいガラス細工を扱うかのように繊細だ。

「……さようなら。次は、空で会おうね」

 幼虫(キャタピー)は、新しい安住の地の感触を確かめるように、ツヤツヤとした身体をくねらせ、ゆっくりと葉の裏へと姿を消した。

 怜はその光景を見届け、肺の奥から溜まっていた息を大きく吐き出した。これで任務完了(ミッション・インポッシブル)だ。

「……よし。じゃあ戻りましょう、急がないと、全体定例に送れちゃいます」

 怜は、踵を返そうと勢いよく立ち上がった。
 ――その、瞬間だった。

「おっと、すまねえ!」

 植え込みの向こう側。

 花壇に水やりをしていた公園管理のおじさんが、二人の気配に気づき、慌ててホースの向きを変える。
 だが、そのせいで、ホースから放たれた水は思わぬ放物線を描き、残酷なほど正確に、怜の頭上へと向かった。

「!? 真壁さ――」

 景が、反射的に手を伸ばす。
 けれど、その指先が怜に届くよりも早く。

 バシャッという激しい効果音と共に、怜は頭から、ホースの水をもろに被ってしまったのである。