「フォルムとか色彩とか……そんなこと聞いてませんから。私は、どうしてその幼虫を連れてきたのかって聞いてるんです。会社に虫を放つなんて、前代未聞ですよ。有り得ません……!」
「えっ……?」
刹那、景は大きく目を見開いた。まさか、駄目だと言われるとは、微塵も予想していなかったと言わんばかりの顔で。
「……なぜ? こんなに綺麗で、無害なのに……」
「綺麗とか、無害とか、そんな美学、会社では通用しません! 虫が苦手な社員だっているんです! とにかく、外に放してきてください。今すぐに!」
「……う、うん。わかったよ。……真壁さんがそう言うなら、仕方ない。……僕、ちょっと外で……彼女にぴったりの新居を探してくるよ……」
景は、シュンと犬のように眉を下げ、名残惜しげに手の甲の幼虫を指先でそっと撫でた。
フラフラと立ち上がり、頼りない足取りでフロアを出ていこうとする。
その背中を見て、怜は、大きな溜め息をつく。
(この男を一人で行かせるのは、あまりに危険だわ。また道端でべつのバグを拾ってきそうだし……)
自分の鞄をデスクに置き、景を追いかける。
「待ってください、課長。私も一緒にいきます!」



