「――ッ」
怜の脳内セキュリティシステムが、「未承認の生命体」として、鼓膜の奥で激しい警告音を鳴らした。
(……何、どういうこと? 質感がおかしい。精巧なフィギュア……じゃない。どう見ても、動いてる……)
キーボードの乾いたタイプ音だけが響く中、滑らかに、景の高級な万年筆の軸を乗り越えようとする、緑色の物体。吸盤のような腹足が、万年筆の光沢のある表面に吸い付き、波打つように前進していく。
怜は、理解不能な光景に数秒フリーズした。けれどすぐに正気を取り戻し、怒りとともに景のデスクに詰め寄る。
「かっ、かっ、課長……ッ!!」
声を絞り出すように呼びかけると、景は嬉しそうに顔を上げた。
「やあ、真壁さん! おはよう! いいGWを過ごせたかな?」
あまりにも眩しい、曇りなき太陽のような微笑み。
怜は一瞬、心底呆れそうになったが、必死に気持ちを奮い立たせる。
「おはよう、じゃありません! 何ですか、この幼虫は!」
たった今も、景の指先からわずか数ミリの場所で、設計資料の束の上を「しっとり」と横切る緑色の幼虫。その正体を、怜はよく知っていた。
(やっぱり、見間違いじゃなかった。これ、アゲハの幼虫だわ……)



