それは、ゴールデンウィークが明けた水曜日の朝のこと。
いつものように『Ark推進課』のフロアに出勤した怜は、自動ドアが開いた瞬間に漂ってきた、妙に張り詰めた空気に大きく眉をひそめた。
(……? 何、この雰囲気。休み明け早々、障害でも起きたの?)
フロアのあちこちで、メンバーたちが自分のディスプレイに向かいながらも、チラチラと落ち着かない視線を一点に送っている。女性社員の一人は、椅子を限界まで後ろに下げ、怯えたように肩を震わせていた。
怜は嫌な予感を覚えながら、その視線の先――フロアの最奥、西園寺景のデスクへと歩を進める。そして、あと数メートルの位置で、金縛りにあったように凍りついた。
「…………えっ」
脳内の論理回路が、物理的なエラーを吐き出し、停止する。
視線の先には、二台のノートPCと最新鋭の4Kモニター。その高精細な発光に照らされ、デスクの鏡面をゆったりと滑るように動く、鮮烈な緑色の物体。
体長約五センチ。水分をたっぷりと湛えたような、ツヤツヤと光り輝く瑞々しい皮膚。そこには、陶器に描かれた紋章のような、黒い帯状の模様がくっきりと浮かび上がっている。
――そう。それは、紛うことなき、生きた幼虫。



