(……って、どうして私が、あの男の私生活を気にしないといけないのよ!)
怜は、ふうーと肺から息を吐き出して、理奈に向き直る。
「ハッキングなんてしてないし、されてないから。理奈はすぐに恋愛に結び付けようとするよね」
「仕方ないでしょー。それが一番楽しいんだから。とにかく、何かあったら相談してよ。いつでも話聞いてあげるから」
「ないから。それに、理奈に話したら次の日には会社全体に広まるでしょ」
「さっすが怜、よくわかってるー」
「褒めてないから」
理奈は今度は獲物を変えたように瀬戸に話しかけ、インフラ基盤部の新しい噂話を聞き出そうとしている。
二人の賑やかな声を横で聞きながら、怜は小皿に残った枝豆を口に運んだ。
昼間、ゆで卵の爆発にオロオロしていたあの男の姿を思い出し、怜はジョッキに触れる液体を眺める。
そう。ただ自分は、このまま平穏に、確実に、プロジェクトを進める――それだけを考えていればいい。
余計なノイズに惑わされず、論理的に、一歩ずつ。
怜は自分に言い聞かせるように、ジョッキに残っていたビールを飲み干した。
――だが、それほど時を待たずして、この決意が盛大なフラグになろうとは、今の彼女は知る由もなかった。



