その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 景は、入り口に立つ怜に気づくと、弾かれたように椅子から立ち上がった。その動きはしなやかで、まるで獲物を見つけた大型の獣のような、野性味のある優雅さを湛えている。

「やあ! 始めまして、プロジェクト『Ark』へようこそ!」

 景は名簿を片手に、弾むような足取りで近づいてきた。
 屈託のない、それでいて相手を懐に引きずり込むような、圧倒的な陽のオーラ。

 彼は怜の数歩手前で足を止めると、自信に満ちた笑みを浮かべて名簿を覗き込んだ。

「ええと、君は……」

 景の瞳が、名簿から女性の名前を探そうとする。
 ――が、それを制するように、怜は答えた。

「真壁です」

 その瞬間、景の笑顔が、まるでバグを起こした映像のように静止する。
 彼は名簿と、目の前に立つ『怜』を交互に見比べ、そのヘーゼル色の瞳を大きく見開いた。

「えっ……。……まかべ、れい、くん?」
「真壁怜です。……今日からよろしくお願いします、西園寺課長。ですが、仕事を始める前に一つだけ言わせてください。私は男ではありませんし、あなたの『右腕』になるためにここへ来たわけでもありません。組織の命令に従って、この泥舟が沈まないよう、穴を塞ぎに来ただけです」
「!」

 怜は、驚愕に染まるその美しい顔を、眼鏡の奥からこれ以上ないほど冷ややかに見据えた。

「……では、私は仕事を始めますので」

 怜は無表情に一礼すると、固まったままの景の横を通り過ぎる。


 ――それが、真壁怜と西園寺景の、春の嵐が吹き抜けるような、最悪の出会い(キックオフ)だった。