その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない




「――ってわけなのよ。結局、パッチが真面目すぎたのが仇になったみたい」

 怜が淡々と説明を終えると、瀬戸が驚愕の表情で、宙にシステム構成図を描くように指を動かした。

「つまり、こういうことか? 夜中にあてたセキュリティパッチが整合性を保とうとしすぎて、一万人のトラフィックが同時に認証テーブルを奪い合った。その結果デッドロックが起きて、ロールバックの処理さえ順番待ち(キュー)に飲み込まれて死んだ……。それを西園寺課長は、稼働中のカーネルメモリを直接書き換えて、認証ロジックごと無視させて強行突破した……ってことか?」
「要約ありがとう。まあ、要するにそういうこと」
「しかも、その気づき方が、『ゲートの音がズレた』からって……。天才っていうか、もはや変態だな。一歩間違えれば、全システムがゴミ山になってたぞ」
「そうなのよ。本当、変態なの」

 怜が呆れたようにビールを煽ると、それまでつまらなそうにハムカツを頬張っていた理奈が、ニヤニヤしながら割って入った。

「もー、ほっとくとすぐ仕事の話になっちゃうんだから。デッドロックとかメモリとかお腹いっぱい。怜、もっと面白いネタ提供してよ。西園寺課長の面白い話!」
「面白い? ポンコツネタなら、いくらでもあるけど」
「そういうのじゃないから。……ほんとはわかってるくせに。女神(ミューズ)なんて呼ばれて、特別な案件を二人三脚で任されて。何かあるでしょ? プライベートのハッキング進捗は?」