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二週間後。四月一日。
怜は死んだような目で、新しいプロジェクトルームのドアの前に立っていた。
――寝不足だった。この二週間、三六協定を超過するギリギリのところまで残業し、引継ぎをしていたせいで、最悪の気分だった。
(西園寺景……それもこれも、全部あなたのせいよ!)
一言文句を言ってやらねば気が済まない――そんな決意を固め、入口の機械にIDをかざす。
ピッと音がして、鍵のロックが開いた。
扉を開けると、部屋にはセットアップしたてのPCが並び、すでに数人が作業をしていた。
その一番奥のデスクで、春の陽光のような笑顔を振り撒く一人の男がいる。
――間違いない。あれが西園寺景。三十歳。
アメリカ帰りのボンボン。あの後独自に集めた情報によると、彼の母親は正妻ではなくフランス人の愛人で、彼自身ハーフだという。
(確かに、髪の色はとても日本人には見えないわね……)
そう考えて、絶句した。
視線の先の男が、顔を上げた瞬間、暴力的なまでの『輝き』が飛び込んできたからだ。
緩やかに波打つ金褐色の髪に、彫刻のように整った鼻梁。そして何より目を引くのは、吸い込まれそうなほど澄んだ、ヘーゼルナッツ色の瞳。
フランス人の母親から受け継いであろうその美貌は、無機質なオフィスの中でそこだけスポットライトを浴びているかのように発光していた。
仕立ての良い紺のベストを纏い、腕捲りをした白いシャツから覗く手首には、怜のボーナスを軽く超えそうな高級時計が鈍い光を放っている。
(……あの男が、西園寺景。嘘でしょ、ここをどこだと思ってるの。映画の撮影現場じゃないのよ)



