具体的なことを何ひとつ言わないまま、景は平然と九条の元に歩み寄る。そうして、ファンタジー世界の王子のごとく、優雅に一礼してみせた。
「改めて、西園寺景と申します。九条常務。この度は会議に遅れて、申し訳ありません」
九条の眉が、不愉快そうに痙攣する。彼は爆発寸前の怒りを冷徹な仮面の裏に押し殺し、景を射抜くような目で見据えた。
「……なるほど。その成り、その口調。随分とふざけた男のようだ。社長の息子だか何だか知らんが、よくもまあ、アルカディアはお前のような男を寄越す気になったものだ。理解に苦しむ」
九条の声は、凍りつくほどに冷たい。
彼は景から視線を外し、後ろに控える情シス社員を睨みつける。
「おい、情シスの。なぜ外部の人間にシステムを触らせた。お前たちのコンプラ意識はどうなっている。……全員、懲戒処分だ」
もはや九条の頭からは、自分が会議室に閉じ込められていたことも、システムダウンを景が復旧したことも、吹き飛んでいるようだった。
彼が重んじるのは、帝国の『秩序』のみ。しかし、責められた情シス社員は、膝を震わせながらも、必死に景を擁護する。
「で、ですが、常務……。この方は、我々情シス総出でも三日はかかると想定したパッチの競合を、わずか一時間で解決されました。動作中のカーネルメモリを直接書き換えるという、正気のエンジニアなら発想すらしない手法で……。常務、彼は……彼は、化け物です!」



