スピーカーから響く景の無邪気な声に、会議室の混乱は、凍り付くような静寂へと一変した。
九条は奪い取ったスマホを、驚愕の表情で凝視している。
「……西園寺……景? アルカディアの……Arkの責任者が……なぜ、情シスに」
震える呟きが、静まり返った室内に重く落ちた。と同時に、ブツッと通話が切れる。
ツー、ツー、ツー……。
怜はその無機質な電子音を聞きながら、呆然と立ち尽くしていた。
(待って。つまり、どういうこと……? 今の通話、課長がダウンしたシステムを復旧させたと聞こえたけど……。――でも、それって)
彼女が今感じているのは、逆転の快感ではなく、底冷えするような焦燥だった。
なぜならば、他社の基幹システムに無許可で入り込み、プログラムを直接書き換える。これはエンジニアの倫理以前に、重大なコンプライアンス違反、最悪の場合は犯罪行為に当たるからだ。
いくらその理由が、ダウンしたシステムの緊急復旧だったとしても――下手をすれば損害賠償どころか、アルカディア・ソリューションズという会社ごと吹き飛ぶ、重大事案。
(何を考えてるのよ、あのバカ課長……!)
九条の顔が、怒りでどす黒く変色していく。彼の握りしめたスマホが、ミシミシと不吉な音を立てた。
そうして、彼が「警察を呼べ!」と叫びかけた、その時だった。



