その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 怜は、迷いなくホワイトボードへと歩み寄り、簡潔な図を描き始めた。

「例えるなら、グループ三十社に、それぞれ『下書きのノート』を持たせるようなものです。各社は自分のノートに好きなタイミングで書き込みますが、Arkはそのすべてに『受付番号(タイムスタンプ)』を厳密に振り、一列に並べ直します。たとえ通信の遅延で順番が前後しても、Arkが『正しい時間の順序』で一冊の『清書本』にまとめ上げる。だからこそ、データの不整合は物理的に起こり得ないのです」

 怜はペンを置き、真っ直ぐに質問者を射抜いた。

「物理的な距離や速度の壁を、Arkという『時間の秩序』で支配する。……これが、私たちの出した最適解です」

「時間の、秩序……」

 質問者は感嘆の溜息を漏らし、納得したように席に座った。
 続けて、いくつかの質問に答えていくうちに、室内はしだいに高揚感で満ちていく。

 ――怜の胸に、確かな手応えが宿った。
 いけるわ。この専門家たちの「期待」は、完全に味方につけた。あとは九条の「承認」をもらうだけ――。

 だが、そのときだった。
 それまで一度も口を開かなかった九条が、低く、冷徹な声を放ったのは。

「……確かに、仕様は完璧だ」

 瞬間、しんと静まり返る室内。九条は、スライドではなく、怜だけを見つめる。

「技術者たちがこれほど身を乗り出すのは、稀なことだ。……だが、私はいい加減な人間を、何よりも嫌う」

「……いい加減?」