その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 ――三十二階、第一特別会議室。会議開始の二分前。
 怜は佐藤と共に、九条を含めた、総勢五十人をも超える各部門の責任者と対峙していた。

 ずらりと並んだ会議卓。そこには、帝国ホールディングス傘下三十社――銀行、不動産、運輸、エネルギー……日本経済の血流を司る各社の代表者と、システムを束ねるCTO(最高技術責任者)たちが一同に会している。
 そして、その中心。一段高い「玉座」に構えるのが、常務の九条だ。

 帝国の屋台骨を支えるこれら「三十家」の視線は、皆一様に冷徹だった。アルカディアという格下のベンダーから来た怜など、彼らにとって、排除すべきバグにしか見えていないのだろう。

「本当に、西園寺さんなしで、大丈夫でしょうか」

 段取りの最終確認をする佐藤の声は震えている。
 余程不安なのだろう。その気持ちは、本来なら怜も同じはずだった。

「最善を尽くすしかありません」

 緊張していないと言えば、嘘になる。これだけの人数を前にプレゼンをするのは、怜にも初めての経験だ。
 けれど、不思議と焦りはない。

 巨大スクリーンに映し出された『Ark・帝国統合基幹システム最終仕様承認案』は完璧だし、仕様は隅々まで頭に叩き込んである。
 それに、隣で佐藤が緊張の臨界点を超え、震える指先でマウスを過剰連打(トリプルクリック)し続けているのを見ていると、逆に怜の頭は氷水に浸したように冴え渡っていった。

「落ち着いてください、佐藤さん。大丈夫ですよ。私たち、あんなに必死に準備したじゃないですか。仕様の説明は、私に任せてください」

 怜は、佐藤を勇気づけるように耳打ちすると、マイクをぎゅっと握りしめた。

(見てなさい、西園寺景。あなたがいなくたって、成功させてやるんだから……!)