その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない

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 四月の半ば。プロジェクト『Ark』が始動してから、二週間が過ぎたその日。

 怜は、西園寺景および、営業部長と共に乗ったタクシーの後部座席で、キリキリとした胃痛と戦っていた。
 東京のビル群は穏やかな春の日差しに包まれているが、彼女の心は正反対、修羅場である。


(……とうとう、この日が来てしまった)

 今日は、プロジェクトの命運を握る帝国側(クライアント)への仕様変更の承認会議。「大手町戦・第一回(仮題)」だ。会議は大手町にある、帝国ホールディングス本社で行われる。
 相手方の代表は、気難しさと偏屈さで「ベンダー殺し」の異名を持つ九条常務。

 だが、怜の胃痛の原因は、相手が九条だからではない。隣の座席で子どものように目をキラキラさせ、窓から東京見物している西園寺課長――景のせいだ。


「なんだ、真壁、ガチガチだなぁ。そんなんじゃ上手くいくものもいかなくなるぞ! なに、仕様は現場と握れてる。自信を持て。今日はあくまで、顔見せのウィニングランだ!」

 怜の前方、助手席でガハハと豪快に笑うのは、赤木営業本部長である。入社二十八年目、百戦錬磨のベテランならではの余裕だが、怜にはそれが、嵐の前の静けさにしか聞こえない。