強がって電話を切ると、静まり返った四畳半に半額カツ丼の匂いが立ち込めていた。
「……十三万、か」
送金画面の「100,000」を「130,000」に打ち直し、今度こそ「決定」ボタンを押す。きっちり十三万円差し引かれた口座残高を確認し、深い溜息をついた。
「……あーあ。健人にだけは絶対言えないな。こんなボロアパートに住んで、毎日値下げ品を食べて過ごしてるなんて」
自分の奨学金の返済、亡き両親に代わり、弟の学費の仕送り。そして、いつか自分のために使いたい「自由」の頭金。
お金はいくらあっても足りない。
――ふと、昼間の景の言葉がリフレインする。
『真壁さん、君は僕の女神だ!』
あのおめでたい御曹司は、自分の「ミューズ」が今、節約の為に値下げ品のカツ丼を前にしているなんて、想像もしていないだろう。
「……私はミューズなんかじゃない。あの男を一年間守り抜いて、五百億のプロジェクトを完遂させる、ただの不愛想な実働部隊よ」
怜は、脳内から景の無邪気な笑顔を追い出して、もう一度だけ口座残高を確かめると、虚無の瞳でカツ丼を一気にかき込んだ。



