その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 今日のキックオフは、控えめに言って「大成功」だった。

 西園寺景が提示した修正案は完璧で、現場の空気は一気に「この船、いけるんじゃないか?」という熱を帯びた。おかげで実務への移行もスムーズ。リーダーが有能なのは、エンジニアにとってこの上ない幸福だ。

 ――ただ、そのリーダーがあまりに「規格外」なことについては、困惑を隠せなかったが。

(……あの男、仕事はできるのに、どうして他はポンコツなの? どういう頭の作りしてたら、あんなことになるのよ。御曹司って皆ああなの?)


 それは、キックオフの休憩中、景が「皆にコーヒーを振る舞おう!」と、意気揚々と最新式のオフィス用コーヒーマシンに向かった時のことだ。

 あまりに戻りが遅いので、怜が様子を見に行くと、景がコーヒーマシンの前でパニックを起こしていた。

『真壁さん! この機械は、なぜ僕を霧の中に閉じ込めようとするんだい……?!』

 半べそで振り返った景の向こうには、噴出口から熱い蒸気を盛大に吹き出すコーヒーマシンがある。
 どうやら景は、『強』と書かれたボタンを、『霧』の類か何かだと勘違いし、しかもフィルターのロックが甘いまま連打したらしい。

『……課長。それは(きょう)です。蒸気洗浄モードを全開にしてどうするんですか。あと、漢字が読めないなら英語メニューに切り替えてください、横のレバーで』
『えっ、そんな魔法のようなレバーが……!?』

 あの時の、純粋に感動した景の顔。
 シュレッダーの件といい、会議中の冷徹なまでのロジックは、一体どこに消えてしまうのか。

(……まあ、いいわ。生活面はポンコツでも、そこは私がフォローしさえすればプロジェクトは回る。あと気になるのは、課長のあの『誠実さ』か。あれが、クライアントの前ではどう転ぶか)