その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 その日の夜、午後八時を回った頃。
 仕事を終えた怜は、まだフロアにチラホラ残る仲間たちに帰宅の挨拶をし、エレベーターホールへと向かった。
 途中の廊下からは、煌々と輝く都会の街並みが見下ろせる。


​ 西新宿の空を切り裂く、ミラーガラスの超高層ビル。
 アルカディア・ソリューションズが入るその巨塔は、一階に立つ無愛想なガードマンと、IDカードがなければ一歩も先へ通さない鉄壁のセキュリティに守られた、現代の要塞だ。

​ 怜は、その要塞を出る時、いつも「システムのシャットダウン」に似た感覚を覚えた。
 
 ビルを出た彼女は、新宿アイランドタワーの麓、赤い『LOVE』のオブジェを冷めた一瞥で通り過ぎ、新宿大ガードの線路下をくぐり抜ける。頭上を走る列車の重低音を浴びた瞬間、さっきまで無機質だった空気が、歌舞伎町特有の雑多なノイズへと書き換わった。

​ 西武新宿駅。ユニカビジョンの巨大な閃光を背に、あえて急行の列を避け、二番ホームの「各駅停車」に乗り込む。

(……はぁ、疲れた。……でも、まあ、プロジェクトのスタートとしては悪くなかった。思ってたよりも、ずっと順調に進みそうだし)

 怜は列車に揺られながら、昼間のことを思い出す。