君が消えた日のことを、私は覚えてる。

五時間目。

先生はいつも通りの声で授業を始めた。

黒板にチョークが走る音。
規則正しい字。
何も変わらない教室。

でも、私は見てしまった。

出席簿をめくる先生の指が、
一瞬だけ止まったことを。

ほんの一秒。

それから、
何事もなかったように次の名前を呼ぶ。

三十七番まで。

私は手を挙げた。

「先生」

自分の声が、思ったより大きく響く。

「三十八番って……」

教室の空気が、凍る。

先生の表情が、わずかに固まった。

すぐに笑顔を作る。
でも目だけが、笑っていない。

「このクラスは三十七人です」

はっきりと、言い切る。

その声は優しいのに、
どこか突き放すようだった。

「そんな質問は、もうしないように」

もう。

その言葉が、胸に引っかかる。

“もう”って、どういう意味?

先生は黒板に背を向ける。

チョークを持つ手が、
ほんの少しだけ震えていた。

――知っているんだ。

先生は、全部。

でも、言わない。

教室の空白が、
ゆっくりと私を飲み込んでいく。