君が消えた日のことを、私は覚えてる。

昼休み。

教室は騒がしいのに、私の周りだけ音が遠い。

空白の席の床に、光が落ちている。
誰もそこを踏まない。

まるで、そこにまだ“誰か”がいるみたいに。

「ねえ」

思いきって、前の席の子に聞いた。

「三十八番って、いなかったっけ?」

一瞬だけ、動きが止まる。

でもすぐに、
「だから何の話?」と笑われる。

その笑い方は、少しだけ強い。

机の脚に視線を落とす。

そこに、薄く残った傷。

カッターで削ったみたいな、浅い線。
何度も、何度も、同じ場所をなぞった跡。

胸が締めつけられる。

あの日、彼は静かだった。

周りが笑っている中で、
彼だけが笑っていなかった。

「やめろよ」って、
小さく言っていた気がする。

でも私は、
“聞こえなかったこと”にした。

チャイムが鳴る。

誰かが言う。
「もうその話やめよ」

その言葉は、
私に向けられたものだったのかもしれない。

空白の席が、少しだけ冷たく見えた。

――私たちは、どこから間違えたんだろう。