君が消えた日のことを、私は覚えてる。

次の日、私は三十八番の席だった場所を見つめながら、耳を澄ませていた。

誰かが小さく笑う声。

「そういえばさ、あれウケたよね」

「あー、あのときの顔?」

名前は出ない。
でも、視線だけが一瞬、空白のほうに向いた。

胸の奥がざわつく。

机の中をそっと開ける。
何もない。

でも、引き出しの奥に、黒い線が残っていた。
ペンで何度も強くなぞったみたいな、荒れた跡。

ふと、記憶がよみがえる。

消えない落書き。
笑いながら取り囲む影。
「冗談だって」という軽い声。

私はそのとき、廊下から見ていた。

止めなかった。
見なかったふりをした。

チャイムが鳴る。

先生が入ってきて、いつも通り出席を取りはじめる。

三十七番まで。

何事もなかったように。

教室の空気だけが、薄く、息苦しい。

あれは、本当に“冗談”だったんだろうか。

それとも――

私たちが、そう思い込みたかっただけ?