言えない。言わない。

三日目の夕方
門の前に小さな影が立っていた。

何も言わず、そのままこちらを見ている。

玲央はボールを止めて
少し間を置いてから口を開く。


玲央「……きょう、うつってる」


昨日の雨で、庭にはまた水がたまっている。

足元の水面に
薄い紫の空がそのまま映っていた。

月乃はゆっくりと近づいて
その前にしゃがみこむ。

水面を覗き込みながら、指先をそっと止める。


月乃「……こわさないでね」


玲央はその横に立ったまま
水たまりを見下ろす。

昨日と同じ場所なのに
今は少し違って見えた。


玲央「うん…ごめん」


その一言だけで
二人のあいだに静かな時間が流れる。

風が止まると
水面は崩れずに空を映したまま揺れない。

壊さない、ということを、その夕方に覚えた。