言えない。言わない。

梅雨の合間の、からりと晴れた夕方。


商店街の入り口に、笹が立てられていた。


玲央「書く?」


月乃「……なに書くの?」


玲央「なんでもいいんだって」


その横で、雫はすでにしゃがみこみ、

短冊に迷いなく書きはじめる。


玲央もすぐに書き終えていた。


『バスケがうまくなりますように』



雫「できた」


玲央「なに書いたの?」


雫「ひみつ」


月乃の鉛筆の先は、まだ紙の上で止まったまま。


玲央「まだ?」


月乃「……むずかしい」


雫「なんでもいいんだよ」


月乃は、一文字ずつ確かめるようにゆっくり書きはじめた。


玲央「見せて」


月乃「……あとで」


笹の下に立ち、背伸びをする。結び目がうまくいかない……


玲央が手を伸ばした。


玲央「貸して」


短冊を受け取り、結び直した。


『まいにち すきな音が きこえますように』


玲央は目を止めた。


音。


空じゃない。


願いは、音。


ぽん、と胸の奥で何かが跳ねる。



雫「なに書いてた?」


玲央「……べつに」


月乃は、自然と柔らかく微笑んで


月乃「帰ろ」


夕暮れの光が、笹を染める。


紙の擦れる音が、やさしく重なる。


まだ知らない。

この願いが、ずっと続いていくことを。