言えない。言わない。

引っ越してきて三日目の夕方、
月乃はいつもと同じように
門の前に立っていた。

庭では玲央がボールをついていて
ぽん、ぽん、と単調な音が続く中
月乃はそのまま空を見上げている。


玲央「今日も。見るだけ?」


月乃「……うん」


声をかけられても視線は動かないまま
月乃は小さくうなずく。


玲央「つまんなくないの?」


月乃は首を横に振ってから言った。


月乃「毎日ちがうから」


玲央はボールを軽く止めて、空を見上げる。


玲央「なにが?」


月乃「空のいろ。今日、ちょっと白いね」


月乃は指で空をなぞるようにして示すが
玲央には違いがよく分からない。

それでも
隣で見上げている横顔がやけに真剣で
なんとなくもう一度同じ場所を見てしまう。


玲央「こっちきて」


門の前に立ったままの
月乃に向かって手招きする。


月乃は少し迷ってから
柵の扉に手をかけて、ゆっくりと中に入った。


玲央「やってみる?」


差し出されたボールを受け取ると
思っていたよりも少し重い。

見よう見まねで地面につくが
思ったように跳ねず
そのまま横に転がっていく。


月乃「むずかしい」


追いかけようとする手の動きに合わせて
玲央が近づいた。


玲央「ちがうよ、こう」


そう言って
月乃の手の上に自分の手を重ねる。
ほんの一瞬だけ、触れてすぐに離れる。


ぽん。


今度はまっすぐ跳ねた。


月乃「できた」


玲央「できたね」


ボールを見たまま
月乃はそのまま名前を呼ぶ。


月乃「玲央」


玲央「なに?」


月乃は少しだけ空を見上げてから
指でその一角を示した。


月乃「ここ、すき」


指差したのは、さっきと同じ空の色だった。

玲央はその方向を見てから
特に深く考えず


玲央「なら、ずっといろよ」


約束みたいな言い方ではなかったけれど
月乃はそのまま小さくうなずいた。

ボールの音がまた続き
さっきより近い距離で同じ時間が流れる。