言えない。言わない。

まだ外は薄暗かった。

天音家の二階から、どたどたと足音が響く。

いつもなら、何度起こしても布団から出ないのに。

今日は違う。

階段を駆け下りる音。

リビングのドアが勢いよく開く。


月乃「きた!?きたよね!?」


父が笑いながら新聞を下ろし、

母がキッチンから顔を出す。

リビングの端のクリスマスツリーの下に

赤いリボンのついた箱が置いてある。

月乃は息を止めた。


月乃「……ほんとに?」


両親がうなずく。

月乃はそっと近づいて、箱を抱きしめる。


月乃「サンタさん……」


慎重にリボンをほどく。


中にあったのは、小さな丸いカメラ。

白くて、少し重たい。


月乃「……カメラ?」


母がしゃがんで目を合わせる。


母「月乃、思い出ってね、心の中に閉まってるでしょ。
それがいっぱいいっぱいになっちゃうと思うの。」


父「でもな、残すこともできる」


月乃はカメラを両手で持つ。


母「大事なものは、ちゃんと残していいんだよ」


父「楽しかった日も、空も、大切な人たちも」


月乃「……なくならない?」


母「うん。なくならない」


父「思い出は、形にしていい。残していいんだよ。」


月乃の目が、少しだけ潤む。

でもすぐに、にこっと笑う。


月乃「じゃあ、いっぱい撮る!」


父が笑う。


父「まずは朝ごはんだろ」


月乃「あとで!」


母「ふふっ珍しいね、自分で起きたの?」


月乃は得意げに胸を張る。


月乃「だってクリスマスだもん!」


父「毎日それくらい早く起きてくれたらな〜」


月乃「やだ〜」


笑い声でいっぱいだった。

ツリーの電飾が、まだ暗い部屋で小さく光っている。

母がその光を見ながら、ぽつりとつぶやいた。


母「……思い出ってね、動いた人のところにできるの」


月乃は、その言葉をまっすぐ受け取る。

月乃はカメラを胸に抱く。

なくならない。

ちゃんと、残せる。

そのことが、少しだけうれしかった。


月乃「わかった……大事にする。」


カメラをぎゅっと抱きしめた。