言えない。言わない。

風が少し冷たくなってきた午後だった。

公園の木の葉が、かさり、と音を立てる。

三人で帰る道。

いつもの並び。

月乃が真ん中で、雫が右、玲央が左。

砂がまだ靴の中に残っている。


月乃「さっきの山、れおのとこ、ちょっと崩れてたよ」


玲央「崩れてねーし」


雫「崩れてたよ〜」


玲央「うるせぇ」


月乃がくすっと笑った。

いつも通りの空気。


横断歩道に近づく。

信号は青だった。

でも曲がってくる車が一台、思ったより速かった。

タイヤがしゃっと、音を出していた。

月乃の足が、ほんの少しだけ止まる。

その瞬間。

月乃は何も言わずに、玲央の手をつかんだ。

ぎゅっと。

いつもより強く。

玲央は一瞬だけ驚いた。

でも、すぐに握り返す。

雫も反対側で、月乃の手を握り返していた。

車は通り過ぎ、風だけが残る。


白い線を踏みながら、前を見たまま。


玲央「痛いって」

月乃「うそ、ごめん」


少しだけ力が弱まる。

渡り終えてから、雫が先に手を離した。

月乃も遅れて離す。


雫「びっくりした?」


月乃「……ちょっとだけ」


正直な声。

びっくりしたから、怖かったからつかんだだけ。

それだけ。

でも。

その“それだけ”が、玲央はなんか嬉しかった。

もっと頼ってくれたらいいのに、と思った。


転びそうなときも。

怒られたときも。

なんでもないときも。

自分の手を、探してくれたらいいのに。

雨が降り出し、3人で少し走った。


バイバイしたあとも、思い出していた。

ぎゅっと握られた感触。

ああいうのが、当たり前になればいいのに。

怖いときだけじゃなくて。

なんでもないときも。

理由なんていらなくて。

ただ、隣だから。

手を繋ぐのが、当たり前になればいい。

そんなことを、ふと思った。

まだ名前もついていないまま。