言えない。言わない。

あの窓の灯りが、最初にともったのは_____5歳の春。

春の終わりの夕方だった。

黒瀬家の隣には引っ越しトラックが止まっていた。

庭では、玲央がバスケットボールをついていた。

ぽん、ぽん、とまだ少し不揃いな音。

二階の窓隙間から、小さな影がそっとのぞく。

玲央は気づいて、ボールを止めた。


玲央「……だれ?」


しばらくして玄関が開き、母親同士の挨拶が重なる。


「今日からお世話になります」


「こちらこそ」


「同い年なんですって〜」


その後ろに立っていたのが、月乃だった。


シルバーブルーの長い髪。

ワイドに揃った前髪の奥に、澄んだ青い瞳。


玲央はボールを抱えて近づく。


玲央「ここに住むの?」


月乃「……うん」


玲央「名前は?」


月乃「つきの」


玲央「つき?」


月乃「ちがう。月乃。……天音月乃。」


玲央「玲央。俺は、黒瀬玲央な。」


短く言って、少し照れくさそうに笑った。


月乃「……れお」


呼び捨てだった。


玲央は一瞬きょとんとして

それから少しだけ笑う。


それが、はじまりだった。